最終年度の研究で、園児の運動能力に園庭や園舎の遊べるスペースの狭さが影響しており、それらが狭い園の子どもの運動能力が低いこと、運動能力テストの結果に、平均値の低下だけでなく二極化傾向がみられることから、園児間に運動能力格差が生じていることが推察された。また、子どもが直面している健康・安全の問題にはケガの防止や災害時の避難、交通安全など、疾病以上に喫緊で必要な事項があることが、保育士への教材作成を通した調査で明らかになった。一方で、遊びの中で身体表現などの様々な表現を通して、子どもたちは想像力、創造性、人間関係をなど心身ともに健やかに生きる力を育んでいることが分かった。 研究期間全体を通して、幼児教育先進国のスウェーデン・ニュージーランドと日本の幼児教育カリキュラム分析と現地での調査から、幼児教育が非認知スキルの育ちや就学後の学力、成人後の社会格差に影響を及ぼしていることが示唆された。日本の幼児教育は情緒的で、子どもは優しく気遣いができ、平均的な知的能力は高いが、自分の意見を述べたり議論する力の育ちは十分ではなく、個としての自立支援に課題があった。また、社会の目がコロナに奪われて、それ以外のアレルギーや他の感染症などの健康問題が見えなくなっているという問題点も明らかになった。なお、懸念されていたコロナによる子どもの活動量の低下であるが、元々ある程度のレベルにあった静的な体力要素は維持されていた。しかし、元々低かった動的な体力要素も低いままで、感染症の有無に関わらず、元気に遊べる保育環境の整備の必要性が再確認された。東日本震災の被災地の子ども支援のボランティアの調査からは、現在もなお子どもたちと保護者は健康不安を持っており、継続的な健康チェック、信頼できる情報、教師や学校による専門的な支援、安心して受けられるコンサルテーションやカウンセリングが必要であることが明らかになった。
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