本研究課題の最終年度である2022年度は、これまでのフィールド・文献調査、資料収集の結果に基づいた分析を行った。海外調査については、オンラインにてオンタリオ州保育士協会(Association of Early Childhood Educators Ontario)のウェビナーに出席し(5月18日、6月1日、10月26日:現地時間)、全日制キンダーガーテンに勤務する保育士とラウンドテーブルで意見交換を行った。 オンタリオ州では全日制キンダーガーテン政策の導入から10年が経過し、4歳児の87%、5歳児の90%が全日制幼稚園に在籍するようになった。同州の制度は他州のモデルとなり、5歳児では全日制が普及した。4歳児についてもノバスコシア州、ケベック州が全日制を導入した。以上の動向について第75回日本保育学会で口頭発表「カナダにおける就学前教育の発展―オンタリオ州全日制幼稚園政策の10年間―」を行った。 オンタリオ州の全日制キンダーガーテン政策の特徴としては①0~8歳を対象とするカリキュラムの策定、②教育省による行政一元化、③教員と保育士(Early Childhood Educator)とのチーム制の導入の3つに整理される。 無償制就学前教育の拡大に影響を与える新たな要因としては、カナダの場合、国と地方との財政関係の変化を指摘できる。2017年6月、連邦・州(ケベックを除く)及び準州の担当大臣によって「幼児教育・保育における多角的枠組(Multilateral Early Learning and Child Care Framework)が締結された。連邦政府から州政府に対して幼児教育・保育に関する資金移譲が実施されるようになった。カナダは、連邦政府と州政府の立場が対等であり、日本とは法体系や行政機構が異なるが、地域が主体となってローカル・ニーズにあった事業を申請し、中央資金を移譲するメカニズムは、就学前教育の行財政を検討する上で参考になる事例であり今後も国際比較研究を継続していく。
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