本研究は,道徳感情とされる罪悪感と恥に着目し,幼児期,児童期を対象とした新たな道徳教材の検討,開発を進めることを目的とした。 2022年度,絵本型の道徳教材について,保育,学校現場の先生方と研究者で討議した結果,絵本の内容を人形劇として制作し,その内容が罪悪感を喚起するのかを実験的に検証することとなった。そこで,2023年度の研究では幼稚園5歳児の罪悪感に人形劇での場面視聴が及ぼす影響について検討した。その際,罪悪感の通文化的特徴をあわせて検証するため,中国と日本の5歳児を対象とした。なお,人形劇場面としては,罪悪感を喚起する実験状況と同じ積木場面,対人場面の罪悪感を喚起する仲間外れ場面,および罪悪感を喚起しない保育室場面を設定した。 中国と日本の5歳児を対象とした結果,人形劇場面の視聴後における中国と日本の5歳児の罪悪感の強さは同様であることが明らかになった。次に,罪悪感を抱いた理由を「回答したか否か」に着目し,国別,人形劇の場面別に検討したところ,中国と日本のいずれにおいても,罪悪感の理由を述べた5歳児の人数は積木場面において有意に多く,仲間外れ場面において有意に少ないことが示された。本結果から,視聴した人形劇の場面や,絵本教材が子どもの罪悪感を抱く理由を深める可能性が示唆された。 これらの結果を幼稚園と小学校現場にフィードバックし,先生方と共有した後,罪悪感と恥を喚起すると考えられる絵本,また実験で用いた人形劇を用いて,保育,授業実践を行った。 研究期間全体の成果について,1つ目として,罪悪感と恥を喚起すると考えられる絵本を明らかにした。2つ目として,絵本や人形劇を教材にすることで罪悪感,恥という道徳感情の喚起だけでなく,道徳感情を抱く理由に影響することを見いだすことができた。これらの結果をもとに,引き続き,幼児,小学校において道徳感情を育成する教育実践を行いたい。
|