本研究では,学校におけるより効果的な「人権感覚の育成」のための条件整備である。「人権感覚の育成」には,「協力」,「参加」,「体験」といった学習形態に意義があるとされているが,その一方,これらが,単なる活動にとどまっていることが指摘されている。この背景には「総合的な教育」を支える個々の教科の学習,人権に関する知的理解に関する学習との関連が理論づけられていないという仮説をもとに,「人権に関する知的理解」と「体験」に関わる学習形態との関連を明らかにし,「人権感覚の育成」のための教科の立場から見た条件整備と提案を行うことを目的とし,2018年度から実施した。なお,研究は,①基礎的な文献(実践の収集,教材,教具の分析)についての研究と,①の成果を生かした②授業開発・実践,インタビューの研究の大きく2つに分かれるが,2020年からの全世界的なCovid19の流行・拡大のため,実践の実施やインタビューについて大きな制約がかかった。そのため,②授業開発・実践,インタビューについては,オンライン上での授業研究会を実施し行った。 以上のような形で行った本研究は2つの意義がある。1つは学習指導要領や教科書の構成及びテキスト分析から、「人権感覚の育成のための体験的な学習の条件」の基礎的情報を経年的に整理した点である。2つは、異なる文化圏の教員をオンライン上でつなげ、学習場面についての意見交換を可能とした点である。これらを通して、個々の体験にとらわれがちな「学習場面」について、文書資料及び視聴覚資料の共有を通した根拠のある対話の条件を整え、一般化した条件を明らかにすることにつながったといえる。
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