研究課題/領域番号 |
18K02536
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
福井 一真 愛媛大学, 教育学部, 准教授 (90583815)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 道具マスター / 視察 |
研究実績の概要 |
H30年度の研究実績は主に1.現職教員を対象とした研修の継続、2.「道具マスタープログラム」の内容検討、3.東京都図画工作研究会の視察、4.木を素材とした作品制作の4点である。 「1.」の「免許状更新講習:図画工作科における道具の取り扱い講座」(6月16日・11月17日に実施)、「松山市教科サマーセミナー」(7月26日実施)では、主にのこぎりや小刀、彫刻刀や紙やすりなどを用いた制作活動を通して、道具の基本的な取り扱い方法や指導上の注意点などを指導した。「2.」では、2年次後期にある「初等図画工作」の受講生を対象として、小刀中級講座(スプーン制作1・2)やのこぎり実践講座(きってつないで木のかたち)、金づち応用講座(たたいてたたいて五寸釘)、彫刻刀初級講座(消しゴムハンコによる多色刷り)などの内容を試作制作も交えて具体的に企画・検討した。 「3.」では2019年2月に第58回東京都図画工作研究会南多摩大会」へ参加し、文部科学省教科調査官の岡田京子氏や東京都図画工作専科の教員との交流を深めた。そこで図画工作科の現状などの情報交換を行った。特に、図画工作科の研究会が充実している東京での視察は「道具マスタープログラム」実施への手掛かりを得ることができた。「4.」では9月に木を素材とした造形作品を国立新美術館で発表し、3月には愛媛県美術館でグループ展の企画・運営を実施した。これにより、木による造形についての研究成果を具体的な造形物の展示によって地域に発表するとともに、木に対する知識や技術や経験を広げ、本研究の基盤となる専門的な知見を深めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の核となる「道具マスタープログラム」の内容検討の進捗を詳述したい。小刀を中心とした道具の使用方法を身につけるための課題は愛媛大学での授業(初等図画工作)や免許状更新講習での課題等で実施してきた。しかし、どれも単発の活動で終わってしまっているため、道具の使用方法を十分に身につけているとは言いがたい現状である。そこで、「初等図画工作科」の受講生を対象とした「放課後!道具マスタープログラム」(仮称)の実施計画をたてている。対象者に本プログラムへの興味関心の有無をアンケート調査したところ、回答者117名中、予定が合えば参加を考えている学生が72名、興味はあるが参加するかどうかはわからない学生は34名、参加しないと回答した学生は9名であった。このアンケートによって学生の本プログラムへの関心が高いことを明らかにした。次に、小刀を中心とした道具の使用方法を段階的に身につけるプログラム内容を以下のように検討した。検討する際のポイントを「木材の樹種」と「つくるもののサイズ」の2点に絞り込むんだ。木材は樹種によって硬さに大きな違いがある。初めて小刀を使用するにあたって、樹種の選択は活動の成否を決定づける重要なポイントである。それと合わせて、また、使用する材の幅や奥行き、厚みなどのサイズの検討も欠かせない。このことから、「初等図画工作」での活動を「初級」と位置づけ、本プログラムでは「中級」から「上級」までの内容として「木のスプーン制作」を計画している。「中級」では樹種を軟らかく削りやすい「赤松」などを準備し、立体を意識できるように材木の厚みを25mm程度のものとする。「上級」では樹種をオークやヒッコリーなどの硬木に変更し、熱によって曲がりやすくなる木の性質を利用した曲げ木によるスプーン制作を試みる。H30年度はこうしたプログラムの内容を、授業等の活動を踏まえて具体的に検討することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は「初等図画工作科教育法」の授業を介して「初等図画工作」受講した3回生への周知を図り、「放課後!道具マスタープログラム」(仮称)を実施するが、本研究の特色のひとつである現職教員への研修についての推進方策が課題として残る。昨年度の「東京都図画工作研究会の視察」の際に、文部科学省教科調査官である岡田京子氏から愛媛大学での「学習指導要領を語る会」の実施提案をいただいていた。そこで、松山市の小学校現職教員を対象として会を実施し、小学校現職教員との交流を深めつつ、本研究を実施するにあたり、現場で求められている状況などを把握したい。本会を実施する具体的な方策として「松山市教育研修センター」の協力を仰ぎ、松山市立の小学校の図画工作科主任等への周知を予定している。さらに、長年東京都図画工作専科として活躍された方(元教員)に松山市立の小学校にて図画工作科の授業実践を依頼し快諾をいただいている。こうした小学校現職教員との交流の場を積極的に設定し、現職教員を対象とした「道具マスタープログラム」についての具体的な内容を検討し、プログラムを実施するための環境整備を行っていく。また、これらの実践と並行して、小刀等の道具の使用についての教育的意義を再考するために、木を教材とした活動についての考察を行い論文にまとめていく。論文執筆ではこれまでの小刀を用いた大学での授業実践(よばい棒制作)や小学生を対象とした実践(魔法の杖・凸凹不思議な鉛筆)などを整理・分析するねらいもある。ここでの論考が「道具マスタープログラム」の実施意義を支える柱になっていくと考えている。まとめた論文は大学美術教育学会において発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
H30年度の計画では教材となる木材の整備を学生アルバイトを雇って実施する予定であったが、学生の都合があわなかったこともあり、そこまで手がつけられずにいたため人件費・謝金を使用する機会がなかったことや、ノートパソコンを購入する計画であったが別の予算で購入が可能となったなど、当初の計画とのズレが生じたため、次年度使用額が生じた。次年度はH30年度に手をつけられずにいた教材の整備に学生アルバイトを雇うことや、東京都図画工作研究会で授業実践の依頼をした講師に対する人件費・謝金に今回の費用をあてる予定である。
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