研究課題/領域番号 |
18K02539
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
赤木 恭子 熊本大学, 大学院教育学研究科, 准教授 (90459975)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 学校間および地域連携 / 対話 / 学修 / 美術教育 / 教材開発 / アートプロジェクト / 復興支援 / 地域活性化 |
研究実績の概要 |
当該年度の研究実績の概要を次に記す。1.既存の研究活動「Roots 私の美術展」(東町中×熊大大学院との学校間連携活動/H29実施)について考察した。美術館のあり方を踏まえた展示モデルの制作と展示活動について、大学教育(美術教育)における対話者の観点から、私に根差す美術、私を取り巻く地域社会や世界との関係が深まっていく学修段階を検討し、その研究成果を学会および論文にて発表した。 2.既存の実践に継続する新たな大学教育における取り組みとして、大学近隣に位置する子飼商店街および地域の縁側 よってこかい!と協力・連携し、熊本地震の復興支援、地域活性化を目的(題材)とするアートプロジェクトを実施した。その一環である「ふるさとに願いを 星あかり 七夕夢美術館」では、商店街を美術館に見立て、熊本の風景をモチーフとした和紙のランプシェードを人々の願いに変えて点灯する創作活動を行った。その他、熊本の情景を地域教材とする造形ワークショップも行った。これらの企画は、美術科教育を学ぶ大学院生を中心に、近隣の各種学校、地域住民の方の参加・協力を得て活動を展開した。 3.当該年度の一連の実践をまとめた美術展「風の宅配便 あなたが紡ぐ星空の詩」を、熊本市現代美術館において開催し、活動で創作したモビール教材および実践の経緯を展示した。一連の活動は県内の美術館の支援や、メディアに表される機会も得て、公に向けた美術教育の普及へ結ばれた。 4.本活動を映像に記録するとともに、映像表現や地域教材および題材開発に関する美術館等への視察や授業研究を実施し、研究領域に対する知見を深めた。 以上により、本年度は、これまでの研究活動の一部をまとめ、継続する課題に対して新たな実践を試みることから、「学校間」の位置づけを、地域社会の中にある教育(社会的・文化的な学びの諸相)において、発展的な学修プログラムとして再考するに至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度の実績概要に照らし、次に研究活動の進捗状況を記す。 これまでの実践の振り返りとして、実績概要の項目1に示す学校間連携活動について考察し、学会等で発表した。本活動については、中学校美術科の授業と大学院の美術科教育学の授業との協働による創作活動を通して、本活動に参画する学習者個々人が、生活や社会に生きる美術のあり方を模索する場において、対話的な関係性に至る教育プロセスを示すことができたと考える。 実績概要の2および3に関する実践(アートプロジェクトに関わる一連の実践活動)は、以上の振り返りを踏まえた大学教育(美術科教育)における新たな連携活動として、地域社会における造形表現の所在を追究すべく実施したものである。連携や協働の形式が、これまでの学校同士の規定の枠組みに拠る関係から、近隣の地域に広がることにより、商店街、近隣の学校、地域の方々等の参加・支援などで輻輳する関係性となる中で、地域における学びの場を結ぶ生涯学習的な視点から、本研究課題や題材を検討することができたと考える。また実践時には、実践概要4の視察・考察を踏まえて、熊本の情景における造形的な特徴を踏まえた地域教材の開発(モビール、和紙染色の影絵ランプシェード、張り子等)や環境構成(街並み、展示会場、制作環境、造形テーマの創作等)を実施することができた。 以上から、当該年度は、振り返り、新たな実践、公に向けた発表と、ほぼ計画通り進んでおり、学びの場を連環する学修形態については、さらなる進展がみられたと考える。一方で、本年度は、こうした実践活動が中心となったため、当初計画していたアーカイブズの制作や、メディアによるコンテンツの制作を見送る結果となった。これらの課題を状況に合わせ、次年度以降につなげたいと考える。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に基づき、本研究の2年目~4年目にかけては、これまでの研究経緯を踏まえ、大学教育(美術科教育)を視点とする連携活動について、学修プロセスの内容に着目しながら考察を進める。そして、最終年度には全体をまとめ、研究成果の公表を行う。以上を実施するにあたり、平成30年度の研究実績の概要と進捗状況を考慮し、今後の研究の推進方策を以下に記す。 1.これまでの実践の成果をまとめ、学会等で発表するとともに、既存の連携や協働のあり方から展開する新たな学修モデルも視野に入れながら、対話的な学びの場を追究する。 2.引き続き、大学教育(美術科教育)における地域素材の題材化、活動経緯を記すアーカイブズやメディアコンテンツの制作に関する調査および授業研究を行う。 3.2で示すアーカイブズやメディアコンテンツの制作を進める。 4.各年度の活動を、展覧会やメディアを通して公表する。 以上を通して、地域社会との連携による調査・研究・教育の連環したサイクルを、熊本の地域性を活かした対話的な場の創出と、美術教育における学修の可能性に照らして追究する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、題材研究のための研修活動およびこれを踏まえた連携プログラムを中心に活動した。このため、当初予定していたアーカイブズとしての映像表現の本格的な制作活動に至れず、メディア機器(カメラ機材、編集機器等)の購入分を見送る結果となり、次年度使用額が発生した。今後の研究計画において、映像制作を実施するため、メディア機器を購入し、研究を進める予定である。
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