研究課題/領域番号 |
18K02572
|
研究機関 | 京都教育大学 |
研究代表者 |
石川 誠 京都教育大学, 教育学部, 教授 (00293978)
|
研究分担者 |
池田 恭浩 京都先端科学大学, 人文学部, 准教授 (00814550)
土屋 雄一郎 京都教育大学, 教育学部, 教授 (70434909)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 中学校社会科公民分野 / 「効率」と「公正」 / 行動経済学 / 学習モデル開発 |
研究実績の概要 |
本研究は2008年公示の学習指導要領中学校社会科編で導入された「効率」と「公正」の概念に関して,経済学及び社会学の立場から両概念に理論的分析を加え,それをもとに社会資本整備を題材とした学習モデル開発を目的としている。今年度は理論研究として「効率」と「公正」の概念の理論的分析の精緻化とマイナンバー制度を題材とした学習モデル開発を行った。 「効率」と「公正」の概念の理論的分析としては,経済学的な立場からは行動経済学の知見をベースとした分析を加えた。また,社会学的な立場からは環境社会学で用いられるNIMBY(Not In My Back Yard)を争点とするコンフリクトの意思決定プロセスをベースとした分析を加えた。両分析から得られた成果を要約すると次の通りとなる。基本は行動経済学における限定合理性に基づいた「効率」と「公正」の概念の考え方である。「効率」については,合意された内容が社会全体でより大きな成果を得るものになっているかを検討した上で,合意の過程における効率を追求できたかを検討することが必要となる。「公正」については,単純に平等などの概念で捉えるのではなく当事者が納得する形で合意に達したかという視点で「公正」を捉えることが重要となる。 社会資本整備を題材とした学習モデル開発としては,題材にマイナンバー制度を取り上げた。マイナンバー制度は平成28年から運用が開始されているが,令和2年8月時点で交付枚数率は18.2%にとどまっている。このことからマイナンバー制度で達成される効率性を評価した上で当事者である国民が制度の導入に納得できているのかについて上記の「効率」と「公正」の概念の考え方を用いて学習することでマイナンバー制度を考察する学習モデルを開発した。 なお,比較研究について昨年度延期した海外調査については今年度も新型コロナウィルス感染症の影響で中止せざるを得なかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の3年目については,「効率」と「公正」の概念に関して経済学的分析及び社会学的分析を加える理論研究と,それをもとにした社会資本整備を題材とした中学校社会科の学習モデル開発を行う開発研究を実施する計画であった。さらに昨年度海外調査ができなかったことによる日本とオランダとの比較研究も計画に加えた。 理論研究については,昨年度の成果をもとにして,経済学の立場からは行動経済学の限定合理性の考え方を援用した分析を行ない,社会学の立場からは環境社会学のNIMBYを争点とするコンフリクトの意思決定プロセスを援用した分析を行なった。その結果,理論研究については,上記の研究実績の概要に記載したような知見を得ることができ,一定の結論を出すことができたと評価している。 開発研究については,社会資本整備を題材とした学習モデル開発としてマイナンバー制度を取り上げた。マイナンバー制度は国民全体に関する社会資本であり,中学生にとっても身近な題材であるが,十分に普及しているとは言えない。学習モデルの開発にあたっては,こうしたマイナンバー制度の現実について,上述の「効率」と「公正」の概念を通して学ぶことによって,社会の仕組みの中で「効率」と「公正」に着目した捉え方を学び,さらには経済,政治,国際社会の諸問題の学習の中でその考え方を活用できることをめざした。このことから開発研究については,一定の成果を出すことができたと考えている。 今年度の計画に加えた比較研究については,今年度も新型コロナウィルスの影響で延期していたオランダでの調査を中止せざるを得なかった。その結果,「効率」と「公正」の概念についての日本とオランダの比較分析を十分に行うことができなかった。 以上のことから,現在までの進捗状況としては,比較研究の遅れから「やや遅れている」と評価している。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究は研究期間について当初の3年から4年に延長が認められた。本年度については,比較研究と開発研究を行う予定である。 比較研究については,これまでの研究によって得られた知見をもとにして中学校社会科公民分野で「効率」と「公正」の概念を扱う際の様々な課題について,主として海外のシチズンシップ教育の盛んな国(イギリスやオランダなど)との比較を通して分析を行なうことを考えている。また,今年度に延期していたオランダへの海外調査を新型コロナウィルス感染症の影響で中止せざるを得なかったため,4年目においても実施を検討しているが,現在の状況から考えると実際に実施できるかは未定と言わざるを得ない。 開発研究については,昨年度に行ったマイナンバー制度を題材とした学習モデルに関して改良を加えていくとともに,さらに昨年度まで理論研究によって得られた知見をもとにして社会資本整備を題材とした学習モデルをもう一つ開発することを計画している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
補助事業に係る用務のため外国出張(イギリス及びオランダのシチズンシップ教育における「効率」と「公正」の概念の扱われ方の調査)を一昨年度予定していたが,新型コロナウィルス感染症の影響で中止した。次年度使用額が生じた理由は,当該出張を昨年度に予定をしていたが,昨年度も新型コロナウィルス感染症の影響により実施することができなかったためである。 次年度使用額については,今年度の比較研究の一環としてイギリス及びオランダでの調査の実施を検討しており,実施できればそれに使用する予定である。しかしながら,現在の新型コロナウィルス感染症の現状から考えると実施できるかどうかについては未定と言わざるを得ない。なお,当該調査のための出張が実施できない状況が明らかになった場合には,次年度使用額を物品費等で使用することを検討する。
|