研究課題/領域番号 |
18K02591
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研究機関 | 日本体育大学 |
研究代表者 |
稲田 結美 日本体育大学, 児童スポーツ教育学部, 准教授 (30585633)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 女子 / 理科教育 / 理系能力 / 進路選択 / ジェンダー |
研究実績の概要 |
本研究では、女子の理系能力の伸長および理系への進路選択促進のための具体的方策の開発を目指している。その目的達成のために、第一に、過去の取組の動向と特徴を明らかにし、第二に、女子児童・生徒の理系分野に対する学習の現状を明らかにし、第三に、それらの研究成果に基づき、今後の日本に求められる方策を検討・開発・提案するという手順で進めていく。 2019年度は、第一の情報収集を継続しつつ、第二の方法を中心に進行させ、第三の方策開発にも着手した。具体的には、理科学習に対する意識の男女差が顕在化し始める中学校第1学年における物理領域の「力と圧力」単元の授業に、2018年度後半から参与観察し、質問紙によって学習内容に対する生徒の意識・態度等に関するデータを収集した。その際、女子の興味・経験に即した教材や体感・視覚的変化を利用した実験などを授業に導入することによって、学習の進行による女子の意識の変容も追跡した。この介入研究によって収集したデータを2019年度に分析し、男女差の観点からも評価を行った。その結果、女子の意識は、単元終了後も開始前と同等の水準を維持し、男女差も拡大していなかったことから、授業の内容や展開によっては、女子も物理領域を意欲的に学習できることが示唆された。一方で、先行研究でも指摘されてきたように、学習内容への関心や実験の好みなどには、男女差が存在することも改めて明らかとなった。これらの結果については、日本理科教育学会全国大会にて発表した。この調査対象校では、引き続き第2学年の理科授業を観察し、学習に対する意識や態度の分析を行っている。 加えて、理科に限らず算数・数学科教育における性差研究の動向と成果について、数学教育研究者との意見交換を行い、理科教育研究との共通点・相違点が明らかとなった。今後の方策の検討・開発にあたり、有益な情報を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の第一の方法については、前年度に引き続き、Webや学会等での聞き取り調査などから情報収集を進めているものの、収集したデータの分析が不十分である。なぜなら、これまでの多様な取組は、学校の教育課程外で実施されているものが多く、理系への関心が高い女子が参加しているため、取組の効果は高く示されているものの、課題が具体的に見えてこない側面がある。その点について、分析方法を再度検討する必要がある。 しかし、第二、第三の手順については、調査対象校の協力もあり、計画よりも順調に進行している。加えて、数学教育や教育社会学の専門家との交流が活発となり、方策の開発に向けて有益な情報を多数得ることができた。 したがって、研究の再検討が必要な箇所と、大きく進展している箇所があるため、総合的に判断すると、(2)おおむね順調に進展している、といえる。
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今後の研究の推進方策 |
第一の方法については、2020年度も引き続き情報収集と分析を行う。分析の観点と方法を再検討し、多様な取組を横断的に分析し、傾向を把握するだけでなく、各取組についてより質的な分析も試み、今後求められる取組についての示唆を得る。 第二については、調査対象校で前年度に収集した生徒の学習状況のデータを分析し、男女差が拡大すると言われている第2学年での女子の理科に対する意識と態度を詳細に明らかにする。「電気」単元において導入した方策の効果についても分析を行い、可能であれば、生徒へのインタビュー調査も実施する。また、第3学年での女子の意識と態度の変容も、引き続き2020年度に参与観察と質問紙によって調査していく。 第三については、科学教育におけるジェンダー問題に関して先進的な取組を展開しているアメリカとイギリスに訪問調査を行う予定であったが、新型コロナウイルス感染症対策のため、海外への訪問調査は控える必要があり、Webでの調査やオンラインでの聞き取り調査などに変更する。可能であれば、2021年度に実施し、方策を提案する際の参考とする。 これらの研究から得られた知見や成果は、教育学関連の学会等で発表する。また、理系に関連する理科以外の教科教育学の専門家との意見交換も続けていく。加えて、教科教育研究の中でジェンダー研究が進んでいる家庭科や体育科等での研究成果についても調査する。なお、本研究は人を対象とする研究であり、質問紙調査やインタビュー調査を実施するため、引き続き倫理面での配慮を欠かさずに実施していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度および2019年度では、第一の方法に関して、Web上や郵送などによる情報収集が進んだことから、予定していた日本各地への聞き取り調査のための旅費をそれほど必要としなかった。そのため、次年度へ繰り越すこととなった。 2020年度は調査対象校で入手した大量のデータを整理・入力するための補助が引き続き必要となるため、その人件費として次年度使用額を充当する予定である。また、海外への訪問調査は困難となるが、オンライン調査のための環境整備や、資料取り寄せのための費用がかかるため、その部分にも充当する。
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備考 |
・課題研究の指定討論者「ジェンダーの視座による数学教育」、日本科学教育学会第43回年会、2019年8月23日 ・シンポジウム登壇「理科教育におけるジェンダー問題と解決の視点」、日本科学教育学会第43回年会、2019年8月24日
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