研究課題/領域番号 |
18K02596
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
滋野 哲秀 龍谷大学, 文学部, 教授 (60788967)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ミスコンセプション / 天気図と風向 / 雲のでき方 / 気象防災 / 天文現象の理解 / 惑星の見え方 / 流星 / 季節に見える星座 |
研究実績の概要 |
本研究では、筆者が所属する大学の教職課程で送り出した教員や教育委員会を通じて広報し賛同して協力者となってくれた教員、京都地学教育研究会の会員(高等学校教員)、日本気象予報士会京都支部、京都地方気象台とネットワークを構築しミスコンセプションの調査と授業改善に向けた共同研究を行ってきた。特に、喫緊の課題となっている防災教育とも関連させながら、天体・気象分野の観察・実験開発を含めた効果的な指導法の研究開発を行い、多くの知見を得るとともに、研究協力校教員との連携授業や教員免許状更新講習など様々な機会をとらえて、効果のある指導法を学校現場に提供することができた。 その中で、大学生が天気図から風向を正しく記入できないなど、至急に改善が必要な誤認識が多く発見され、気象防災につながる正しい知識を国民全体に普及する必要性が明確になった。特に雷など多くの気象に関する誤認識は大人にも存在し、教員や他の大人から児童生徒に誤認識が教えられ、それが繰り返されている可能性が高いことも明らかになった。 こうした研究成果を踏まえ、連携が構築できた上記の組織をはじめ、本申請者が兼務する京都教育大学大学院連合教職実践研究科の院生、本学の理科教員を志望する学生の協力を得ながら生まれたネットワーク組織をさらに発展させる形で「学校を基盤とするシチズンサイエンス」に取り組むことが、気象をはじめとする防災教育や天文現象などの正しい理解を普及することにつながるという知見に至った。この間の研究実績は、論文や学会で公表することができた。また、理科の授業における効果的な指導法を普及することだけではなく、研究活動をSSHの探究活動と絡めながらさらに深化させ、新たな学習指導要領の実施に伴い理科教育だけでなく近畿北部の高等学校における総合的な探究の時間のカリキュラム開発を支援するということにもつながる結果となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
天体・気象分野におけるミスコンセプション事例の調査と系統的な指導としてどのような指導法が必要なのかに関して、中学校・高等学校生徒のアンケート調査及び指導教員へのインタビューなどがほぼ終了した。 また、研究内容を研究協力者である教員と共有し、実際の授業における指導で、研究成果の検証を行ってもらうこともできた。今後その研究成果を他の教員にも普及して、できるだけ多くの教育現場で活用してもらい、評価を受け、さらに内容を改善してフィードバックできるサイクルを推進していきたい。 この研究内容のまとめとして論文を2本投稿することができた。また、関係する学会において研究内容を公表する予定であり、すでに2021年度の二つの学会で発表をエントリーする準備を進めている。 さらに、毎年実施される教員免許状更新講習においても、本研究で開発した天体・気象分野の再現実験や指導法を現職教員に紹介しており、受講者からは、「2学期以降の授業において、講習で学んだ指導法を活用したところ、とても有意義な結果が得られた」との報告を受けており「成果を中学校教員で組織する研究会に発表させてほしい」という依頼があった。その結果、受講者が所属する自治体の2020年度の研究会報告書に研究内容に基づく成果として記載されたことは一つの大きな成果といえる。教員免許状更新講習の受講者で、理科が専門ではない小学校教員からも「理科がとても面白くなった。天体の指導に苦慮していたが指導の大きなポイントとなる視点がみえてきた」「講習で学んだ事例を含めた本にしてほしい」などのコメントが寄せられた。この分野の苦手意識を克服していくための普及活動が重要であり、教員免許状更新講習に参加してくれた教員から、さらにその教員の所属するネットワークを通じて研究活動において蓄積できた知見を普及するネットワークが構築できつつあることも大きな成果といえる。
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今後の研究の推進方策 |
研究成果を踏まえ、この分野のミスコンセプションを解消するには、連携が構築できた宮津市教育委員会、本申請者が運営指導委員を務めるスーパーサイエンスハイスクールSSH)の理科教員、京都府総合教育センター、日本気象予報士会京都支部の会員をはじめ、本申請者の所属先である京都教育大学教職大学院の院生、本学の理科教員を志望する学生の協力を得ながら生まれたネットワーク組織をさらに発展させる形で「学校を基盤とするシチズンサイエンス」に取り組むことが、気象をはじめとする防災教育や天文現象などの正しい理解を普及することにつながるという着想に至った。 その着想をもとに、義務教育段階においては、GIGAスクール構想により、急速に学校に配備されつつある児童生徒一人一端末を活用してシチズンサイエンスという取り組みを推進していく予定である。 また、高等学校においては、こうした研究活動をSSHの探究活動と絡めながら担当教員と協働で研究し、SSH指定を受けていない近畿北部の高等学校においても2022年度から施行される学習指導要領の「総合的な探究の時間」や「理数探求」などの探究活動カリキュラム開発を支援する形でシチズンサイエンスを推進していきたい。3年間の研究活動において構築した小中高等学校や団体の協力で、シチズンサイエンスの取り組みに移行する準備が整ってきている。 具体的には、日本海側の地域に発生する「おろし風」や「だし風」という地域の言説を観測により研究しようとする探究活動や強風時における建物周辺の風の強まりなど局地風の探究、過去の大雨など地域の自然災害を調査し、今後の防災を考えようとする探究、京都府北部の限界集落の希少生物と環境を研究する活動など生徒の探究活動支援という形で生徒の問いからはじまった研究を支援するという深まりが生まれており、小中高大連携による研究をを推進していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度に発生したコロナ禍において、緊急事態宣言が発出された影響で、研究協力校への調査出張が少なくなってしまいオンラインでのやりとりが多くなり、旅費の支出が計画より少なくなった。アンケートによる調査は行えたが、学校現場での研究協力者の協力のもとで授業を通じた生徒の反応やインタビュー調査、授業観察などの調査研究、研究協力者との授業後の振り返りによる詳細な知見の収集ができない中で、対象生徒は異なるが、直接学校を訪問して生徒の動きや反応などを観察して調査研究データをより確実なものにする必要がある。 また、国際学会や国内学会での発表を予定していたが海外渡航が困難になった影響で海外出張旅費の支出が0となったほか、国内学会もオンライン開催が中心となり旅費が予算よりも大幅に少なくなった。こうした旅費の支出が大幅に少なくなったことが次年度使用額が生じた大きな理由である。 次年度使用額にについての使用計画としては、研究協力校における生徒の状況についての観察等による調査を学年を変えて行い研究データの品質を向上させること、さらに研究を進める中で生じた新たな課題についての研究を進めるための消耗品の購入や旅費などに使用したいと考えている。さらに、コロナ感染状況が改善すれば学会での成果発表を対面で行うための旅費としても使用を考えている。
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