研究課題/領域番号 |
18K02596
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
滋野 哲秀 龍谷大学, 文学部, 教授 (60788967)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ミスコンセプション / 教科書の記述の問題 / 気象防災 / 降水域のミスコンセプション / 気圧と風向 / 水蒸気傾度 / 天体に関する図の理解 / 天体観察の課題 |
研究実績の概要 |
ミスコンセプションに関する研究は、当初の天体気象分野のみならず、理科教育全般に拡大し、様々な事例の把握を行うことができた。 特に天体気象分野に関しては、新しい学習指導要領の実施に伴う教科書の記述分析を行った。使用した教科書は、採択された5社すべてに及び、学校現場の研究協力者と情報交換を行いながら、大学の授業における学生のミスコンセプション実態と照合しつつ初等中等教育全般の事例を分析し、効果的な指導法を開発することができた。その指導法の開発が更なる問いを生み出し、より探究的な指導法の開発をもたらす原動力になっている。 気象分野のミスコンセプションに関しては、教科書の記述と模式図が最新の気象技術に伴う実際の気象現象を反映したものになっておらず、約100年前のノルウェー学派によるビャークネスモデルといわれる古典的なモデルを用いた教科書の模式図になっていることが明らかになった。この記述によれば、多発する気象災害について、正しい理解ができず、降水域の発生場所などが誤った認識になってしまうことが明らかになった。この件については、2021年度に実施した教員免許状更新講習で受講生に示すと同時に2021年度の学会(日本科学教育学会大会、日本気象学会秋季大会)で研究発表として紹介した。 こうした結果を受けて、中学校の教科書会社1社がすぐに筆者が発表した情報をもとに来学し、教科書の修正箇所の記述変更を行うため、指摘箇所の確認と記述修正に向けての助言を求めてきたため、研究に基づいて修正助言を行った。2022年度中に教科書の記述の修正が行われる予定であり、修正作業に関してのアドバイスを継続することとなった。 さらに、こうしたミスコンセプションを研究することにより、探究的なより高度な問いのデザインが可能になることが明らかになり、今後の研究に反映できることになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
学生のミスコンセプションから初等中等教育の課題を把握し、現場の研究協力者とともに効果的な指導法を開発することを目的として研究を行ってきたが、その研究が次第に教科書分析にも移行し、教科書の記述がミスコンセプションを生み出す原因になっているという実態把握につながった。 この教科書記述の危うさを広く教員や気象関係者にも普及していくことが、気象防災に関する国民的理解にとって、極めて重要であることが明確になった。 教科書会社の修正に関する助言依頼に基づいて、研究に基づくより効果的な教科書記述の作成ににかかわることができるようになった点は、本研究の予測しなかった大きな成果と言える。 また、コロナ禍により学校現場などに出向くことに制限がかかってしまったがその分、教科書の記述分析に時間を注ぐことが可能となり、その結果予想しなかった教科書分析と記述に関する分析結果を提示し、学会等で公表できた点は大きな予想しないものとなった。 国際学会での発表という点に関しては、コロナ禍で渡航して発表することはできなかったが、国際会議事務局の配慮によりオンラインで発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究に当たっては、2021年度の成果を踏まえ、「教科書の記述分析をさらに進めること」、「教科書会社の依頼に応えるための研究をさらに深化させること」、「学校現場の研究協力者である教職員と共同研究をさらに進めること」、「大学の授業でのミスコンセプション研究」といったサイクルをより強固なものにしながら、より効果的な指導法を研究開発することである。 さらに、大きな研究目標として考えている点は、研究を行う中で、今次の学習指導要領の理念を実現するための探究的な理科教育の充実に貢献できるような「問いのデザイン」を学校現場に提案できるようにすることである。 特に、理科教育のみならず、義務教育における「総合的な学習の時間」、高等学校における「総合的な探究の時間」のカリキュラムデザインに関しての伴走者としての役割を研究開発することも大きな研究テーマとして考えている。こうした点は、シチズンサイエンスの取り組みにつながり、地域人々の教育にも貢献できるものである。 現実に、本研究から関連してさらに発展したものとして京都府宮津市、舞鶴市、高槻市の小中学校及び京都府立峰山高等学校、京都府立宮津高等学校、京都府立桃山高等学校などでの探究活動にかかわることが大くなり、ミスコンセプションの知見と探究活動が繋がったものとなり始めていることがある。生徒の主体的な探究活動への伴走という点は、学校の教職員とともに新たな理科教育のみならず生徒の主体的な学習活動につながるものであり、こうした点も含めて研究を推進する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度もコロナ禍が継続し、再三、学校現場への出張が中止となった。 やむを得ずオンライン等での学校との調整を行い共同研究を行ってきたが、旅費が支出できなかった分が残額となっている。また、現場での研究を行うために消耗品を購入して再現実験などを行おうとしたが、コロナ禍によるソーシャルディスタンスの配慮により実験の制限があり、そのために準備しようとしていた消耗品の購入を見合わせた。 こうした状況が次年度への繰り越し額となっており、コロナ禍で実施できなかった出張を伴う学校現場での研究協力者との研究を2022年度に実施し、繰越額を使用する計画である。主に、2022年度の経費として、共同研究に伴う旅費及び再現実験に伴う消耗品として経費を使用する計画である。
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