研究課題/領域番号 |
18K02599
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研究機関 | 就実大学 |
研究代表者 |
安久津 太一 就実大学, 教育学部, 講師 (00758815)
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研究分担者 |
中西 裕 就実大学, 人文科学部, 教授 (30413537)
山田 美穂 就実大学, 教育学部, 講師 (30610026)
岡田 信吾 就実大学, 教育学部, 教授 (80645276)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ユニバーサルデザイン / ICT / 伝統楽器 / 動き / 学際的な音楽活動 |
研究実績の概要 |
重度重複障害児を対象として,ICT・伝統楽器・動きを融合的に用いた音楽教育の実践を開発した。ICTの積極的な導入に加え,伝統楽器を融合的に用い,重複障害児が主体的に音楽活動に参加できる方策を実践的に研究した。特にICTに関しては障害児が器楽合奏に参加しやすくする専用の機器の開発も行った。 電子テクノロジーの分野では,中西が,縦横に並んだ小さなボタンを指で操作することでDAWをリアルタイム演奏することができるマトリクスコントローラを使った機器を開発した。リズム音やフレーズを,ボタンが押された次の小節の頭からテンポに同期して送出することができ,演奏のスキルがなくても器楽合奏が可能になる。さらに,指での繊細な操作が困難な幼児・高齢者・障害者などの参加の可能性を広げるため,直径約13cmの大型押しボタンスイッチでマトリクスコントローラを操作できるようにするインターフェイスを試作した。赤・青・緑の大型スイッチを2小節に1回程度押下する動作によってきらきら星のメロディを演奏することができる。複数の実践の機会では、支援学校小学部の生徒さんが参加されていたが,スイッチの前から離れず,母親のサポートのもと熱心に取り組もうとする姿が見られ,音楽への参加の幅を広げる可能性を感じることができた。 日本音楽教育学会を始め複数の学会や研究的な授業実践の場で,研究チームとしてワークショップを繰り返し,各現場で先進的な器楽教育・音楽教育に取り組んでいる研究者・実践者が協働し、ユニバーサルデザインを見据えた音楽活動のデモンストレーションを実施することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はおかげさまで1年目を終了することができ,おおむね順調に進展している。理由としては,テクノロジーの分野での開発と実践の試行,機器の改善が大きく進化したことである。また伝統楽器とテクノロジーを組み合わせた音楽活動の実践の回数を,当初の予定よりも多く頻回に試行することができたことが挙げられる。複数の査読誌や国内外の学会発表に採択された。成果は間も無く国際発信される見込みである。一方で,動きと音楽の組み合わせは,これから2年間の研究課題として位置付けられる結果となった。さらに評価も今後の課題とされた。これまでに実践の観察記録は仔細にデータ収集できており,今後分析を丁寧に進める所存である。 以下研究ワークショップの省察である。特別支援教育分野の岡田が,バリアフリーもユニバーサルデザインも,様々な状態の人たちが社会に等しく参加できるようにするという考え方である。障害のある人を念頭においた場合,ついついできなさに注目が集まり,「できるようにする」という活動レベルでの対応を考えてしまう。しかし,人は,「できる」ことに喜びを感じるのではなく,周囲の人たちとともに活動に「参加」をすることに喜びを感じるのである。様々な身体状態の人が「参加」できるようにするためには,個々の状況に応じてそれぞれができるやり方での参加を認めることが前提となる。すべての人が同じやり方をするようにすることは,平等(Equality)ではあるかもしれないが,公平(Equity)ではないという視点を示した。また,全体の振り返りの中で,一連のワークショップでは,失敗にも寛大であり,多様な表現の入り口から参加可能な活動が準備されており,ユニバーサルデザインの実践モデルとして非常に適しているとの現場の視点・助言を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
第一にこれまでの研究成果の国内外関連学会での発信が挙げられる。日本特殊教育学会(広島大学)、国際乳幼児教育学会(台湾)、日本音楽教育学会(東京芸術大学)等での学会発表、学会査読誌として『共生科学』への論文掲載も予定されている。上記の発表を学びの場と捉え、さらに機器開発及び実践開発の精度を向上させる。第二に、評価手法の開発が主眼となる。コロンビア大学カストデロ博士に随時助言を得ながら、幼児や障害を有する児童が、非言語的に音楽とかかわる様子を観察し、観察法を援用して評価を行う。これらの成果は、音楽教育系のインパクトファクターを有する国際誌への投稿を明確な目標に定める。第三に、音楽と動きの融合的な実践を開発する。体の動き(表現運動)と音の関係を参加型の実演で示した。手順は以下の通りである。(1)抽象的な動きをする物体が記録された無音のDVDを見て,動きをまねする。(2)それを「何に見えるか。」「どんなイメージか。」など言語化する。(3)きらきらするグッズを動かしたり様々なきらきら音を聴いたりして,(2)と同様に言語化させる作業をする。(4)サウンドと一致するイメージを言語化しつつ,音に合わせて身体表現する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度は、機器開発及び実践開発を中心に研究を進めてきた。国内でのワークショッップの実施が多かったこと、国内学会への参加が多かったことが主な理由で、次年度使用額が発生した。加えて、機器開発において、企業への外注等は一切行わず、中西が手作業で開発を行ったため、次年度使用額が発生した。計画的な予算執行を執り行う。
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