研究課題/領域番号 |
18K02600
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研究機関 | 鹿児島国際大学 |
研究代表者 |
飯田 伸二 鹿児島国際大学, 国際文化学部, 教授 (60289650)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 前期中等教育 / 文学教育 / 国語教育 / フランス / 知識・技能・教養からなる共通基盤 / コレージュ / カリキュラム / 価値 |
研究実績の概要 |
2020年度はフランスの義務教育課程第4学習期の学習指導要領(『フランス国民教育,青少年,スポーツ省官報』30号,2018年7月26日)で国語に関連する部分を全訳し,若干の解説を付し発表した(『国際文化学部論集』(鹿児島国際大学)第21巻2号,2020年10月)。第4学習期はコレージュ第2学年から第4学年に渡る期間であり,日本の学校制度では中学1年から3年に相当する。具体的には各科目の学習目標,そのための指導方法を詳述した学習指導要領第3部の国語教育に割かれた章の全文を翻訳した。さらに,現行学習指導要領全体への理解に資するため,第4学習期の意義・目標を述べた第1部の全文,義務教育課程の枠組みである「知識,技能(コンピテンシー),教養からなる共通基盤」に対する第4学習期の寄与を説明した第2部の全文も翻訳した。前年度に翻訳した義務教育課程第2学習期,第3学習期の翻訳の続きをなすこの翻訳により,フランスの義務教育課程(小学校,中学校)における国語教育の全体像を理解する基本的資料が日本語で読めることになった。 さらに,義務教育課程の現行学習指導要領の新機軸である価値の伝達・教育と,国語教育との関連を論じた論文を発表した(「フランス語教育の価値転換:前期中等教育を中心に」『STELLA』39号,2020年)。この論文では,価値に関する個人,クラスでの考察を深めるため,国語教育では,問いに対する答えと同じく,答えに至る思考過程を言語化し伝達・共有する作業が重視されていることを,学習指導要領の分析に加え,学習指導要領作成に際して学習指導要領作成作業部会に寄せられた論考を分析することにより,明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
この3年間でフランス義務教育課程におけるフランス語=国語教育の根幹をなす基本資料を精読し,日本語に訳す作業を完遂することができた。すなわち「知識・技能・教養からなる共通基盤」(2015年3月31日付政令)及び第2・3・4学習期の学習指導要領(2018年7月26日付『官報』)の第1部,第2部の全訳及び第3部のフランス語教育に充てられた章の全訳である。 また,1977年の統一コレージュ施行以来,中等教育課程の学習を有益に送るだけの文化資本がない環境の生徒への対応に追われていた感のある近年の学習指導要領と,現行学習指導要は一線を画していることが確認できたのは重要な成果である。すなわち義務教育課程の重心が,低学力層への対応から,価値の理解・伝達へと大きく舵を切ったのである。分裂の危機にあるフランス社会を統合する価値の理解・伝達こそが,義務教育課程の喫緊の課題であり,その中でとりわけ国語教育は重要な役割を果たすべく,従来の伝統的な目標(文法,文学に関する基本的教養の養成など)に加え生徒の個人的読解とそのプロセスの言語化・共有が重視されている。 以上のような成果を上げることができた一方で,フランスでの資料収集,聞き取り調査は国外への移動が厳しく制限され,さらにはフランス国内の大学,図書館も閉鎖されていたため,中止せざるを得なかった。このために,現行指導要領下での教育実践を教育現場で確認することはできなかった。また資料,特に一般には販売されていない教員向け教授資料の収集も叶わなかった。また,近年特に緊密に連絡を取り,共同して研究会の企画,および研究書の発行を行っているボルドー大学=アキテーヌ高等師範教育学校の研究スタッフと面談し,フランスの教育事情・諸問題に関する知見を得ることもできなかった。 また,副学長として,本務校におけるコロナウィルス感染症対策の立案,実施に多くの時間を割かねばならなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は研究の最終年度となる予定である。過去3年の主な研究成果,すなわちフランスの現行学習指導要領の翻訳・分析に基づき,1)フランス語=国語のコレージュ用教科書の分析,及び2)義務教育課程修了証(以下「DNB」)試験の検討を中心に研究を進める。 教科書分析では以下の問いを中心に研究を推進する。すなわち,価値の理解・伝達が国語教育の重要課題として前景化することにより,生徒と教科書が収録しているテクストとの間の関係にどのような変化が確認できるのか。収録されているテクストに変化は見られるのか,またテクストにに付された設問にどのような変化が見られるのか,どのような方向性が確認できるのかを中心に教科書の分析を進める。 DNBについては以下の点を中心に研究を推進する。1)現行カリキュラム施行によって,DNBの構成,内容にはどのような変更がもたらされたのか。これは,受験者に求められる知識・技能・教養を問うことと直結する。2)DNBに課されているイメージの学習については,どのような問題が課されているのか。3)また,その問題を通じ,受験者にどのような能力を求めているのか。 これら研究を推進するには,フランス現地での資料収集,関係者への聞き取り調査を実施することが望ましいのは言うまでもない。特に1)については教育現場を視察し,現場の教員の教科書に対する意見・感覚を参考でにできるに如くはない。しかし,コロナウィルス感染症の状況によってフランス出張が困難な場合は,文献による調査によって代替する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年9月と2021年3月にフランス(パリ,ボルドー)への出張を予定していた。しかし,コロナウィルス感染症拡大のためにフランスの公共図書館,大学及び付属施設が閉鎖されたため,取りやめにせざるをなくなった。さらに,本務校の副学長として,予防対策に追われた。 状況が許せば2021年夏季休暇中にフランスで資料収集,聞き取り調査を実施予定である。それが叶わない場合は文献資料の収集によって代替する。
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