研究課題/領域番号 |
18K02617
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
水山 光春 青山学院大学, 教育人間科学部, 特任教授 (80303923)
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研究分担者 |
吉村 功太郎 宮崎大学, 大学院教育学研究科, 教授 (00270265)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | シティズンシップ教育 / 政治教育 / 品格教育 / メタ学習 / 社会科教育 / 道徳教育 / 市民教育 |
研究実績の概要 |
本年度は政治教育と品格教育の枠組みを検討した。 政治教育に関しては,政治的価値判断について,大杉昭英の社会科価値学習論(2019)を中心に検討した。大杉はそれを「社会科+α型」と「社会科特化型」の二つに分け,「社会科+α型」に対しては,社会的論争では,社会的決定や制度等の正・不正を判定する基準である正義の諸構想は共訳不可能かつ対立しているので,いくら合意形成を目指しても,価値観の変容は起こりにくいことを指摘した。一方,「社会科特化型」に対しても,規範的推論は知識の論理的な側面しか捉えておらず,学習者の心理的側面の検討が不足していること,および規範的推論と社会的な対立を民主的に解決するとこととの関連が不明であることを指摘した。 品格教育に関しては,道徳的判断について,川中大輔の道徳教育論(2019)を中心に検討した。川中は,社会問題に立ち向かう市民像として「個人として責任ある市民」「参加する市民」「公正志向の市民」の三つを示した。これらの詳細な検討から,「参加(消極的/積極的)」と「対立(克服/回避)」の二つの鍵概念を抽出することができた。また,これら二つの概念を縦横の軸とすると,社会問題に立ち向かう市民を,「対立克服志向の積極的参加型市民」「対立克服志向の消極的参加型市民」「対立回避志向の消極的参加型市民」「対立回避志向の消極的参加型市民」の四つに分類することができた。 この分類に大杉と川中の議論を重ね合わせると,大杉の議論では川中が重視する「積極的参加型」の市民像についての検討が不十分であること,川中の議論では「対立克服志向の消極的参加型市民」に関する議論が欠落していることが分かった。また,「参加(消極的/積極的)」と「対立(克服/回避)」の二つの軸(鍵概念)は,シティズンシップ教育の認識・判断・行動の三つの要素間の結合関係を示すのに有効であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究は「理論」「開発」「実践」「評価」の四つのステージを組み合わせて行い,研究期間の三年間を通して,以下のように研究を進めることとしていた。 1)「理論」研究においては,シティズンシップ教育における政治教育と品格教育の内容や教科との関わりを,知識やスキルや価値観等の観点から整理する。2)「開発」研究においては,理論研究の成果をもとに,海外の先進事例調査等を踏まえ,社会科関連教科での実施を視野に入れた教材・学習プログラムを開発する。3)「実践」研究においては,開発した教材・学習プログラムを,附属学校教員の主導のもとに試行する。4)「評価」研究においては,3)の試行結果をもとに教材・プログラムを評価・改善し,発信する。 特に初年度は,理論研究を中心にしながら開発研究にも着手し,理論研究において,政治教育と品格教育の枠組みを検討するとともに,開発研究において,海外事例の調査等を踏まえ,シティズンシップ教育や品格教育の授業の実態を明らかにすることを目ざした。 このうち理論研究においては,「研究実績の概要」にも記したように,シティズンシップ教育における認識と判断と行動を統合する理論モデル構築に一定の見通しを立てることができた点で,大きな成果があった。しかし,開発研究においては,研究代表者の研究環境の変化(定年退職による国立大学から私立大学への転籍)にともなう予算執行上の不慣れもあって,海外調査を実施することができず,先方で実施してもらった授業の記録の翻訳や整理に終わった。その点,目標に未達の部分があり,予算も未消化(特に海外調査分)な部分があるので,(3)「やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は今後,理論研究から開発研究,実践研究,評価研究へとゆるやかに移行していくことを目ざしている。 これまで,第一年次の理論を中心とした研究によって,政治教育に関する分類枠組みに一定の方向性が見えたので,第二年次は理論面では品格教育およびメタ学習,とりわけ後者の研究に重点を置く。 教養知のみでなく実践知を重視するシティズンシップ教育においては,知識,判断と行動のスパイラルな循環,とりわけ判断と行動を結びつけることが求められる。そのとき,鍵となるものが「スキル」である。しかるに従来のシティズンシップ教育研究においては,知識や理解についての研究ほどにはスキルの研究は重視されてこなかった。それに対して本研究では,メタ学びに必須かつ不可欠な要素としてスキル(技能)を捉えているので,メタ学習に関する理論面での研究はシティズンシップ・スキルが中心となる。 そのことと連動して,開発研究および実践研究においても,シティズンシップ・スキルの獲得を中心とする授業モデルや単元を開発する。その際,シティズンシップ教育における政治教育と品格教育を的確に統合していると考えられる国内外の事例を調査する。調査にあたっては,連携研究者による分担・参加も得て,初年度に未実施の分も含めて積極的に行う予定でいる。第3年次には,実践や国内外の調査をベースにして理論を再検討するとともに,学会等で本研究の成果を発表する。併せて本研究の全体を総括し,評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が発生したのは,主として研究代表者の所属機関移動(国立大学から私立大学へ)にともなう業務や事務手続き上の不慣れ,及び先方との間での日程調整不良のため,予定していた海外調査が実施できなかったので,旅費及び物品費(海外現地購入資料)に未使用額が生じたことによる。 次年度には,連携研究者の分担・参加も得て,前年度に行えなかった調査に加えて当該年度に予定している海外調査を合わせ行うことによって,精力的に研究を進める予定でいる。
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