研究課題
本研究の目的は,近年のシティズンシップ教育における政治教育指向から道徳教育指向へのベクトルの変化が,シティズンシップ教育に関心を寄せる教員たちにもたらしている戸惑い,及び平成29年版学習指導要領における資質・能力論,とりわけ「学びに向かう力,人間性等」の捉え方のわかりにくさを解消することにある。そのために本研究では,『教育の四つの次元』(Center for Curriculum Redesign, 2015)におけるアンブレラ概念としての「メタ学習」に着目し,次の三つの視点から研究を進めた。(1) 学習指導要領における資質・能力論の視点から,シティズンシップ教育における政治教育と道徳教育の関係について検討するとともに,「メタ学習」が知識,スキル,人間性の全体にまたがる重要なカギ概念であることを示した。(2) 英国における品格教育について検討し,『教育の四つの次元』においては教育の一つの次元にすぎなかったCharacter(品格)は,知性をはじめ,道徳・市民・行動の四つの美徳を統合・包括する実践知(フロネシス)として生まれ変わり,経験と批判的省察を通して開発される,まさに方法論的にはメタ学習そのものであることを示した。(3) 実践知としてのメタ学習の視点から政治教育と品格教育を統合する,具体的には学習のプロセスに,同情的共感(シンパシー)と理解的共感(エンパシー)の二つの要素を組み込み,かつ価値観調整の段階を,強化・転向・妥協・創造を含むより大きな過程と捉える学習モデルを作成した。このモデルは,共感(同情・理解)→分析・批判(自己)→調整→分析・批判(他者)というプロセスを繰り返すことで,政治から道徳,あるいは道徳から政治への一方通行的な教育を乗り越える循環的・経験的な学びを実現する。その意味で,政治教育と品格教育を統合するメタ学習モデルとなっている。
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