研究課題/領域番号 |
18K02627
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
佐野 栄 愛媛大学, 教育学部, 教授 (10226037)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 教員養成 / 防災教育 / 自然災害 |
研究実績の概要 |
教員を養成する教育学部において、現行の教員養成カリキュラムの中に、様々な自然災害や防災・減災に関する教育科目はほとんど構築されていない。このことを踏まえ、本研究は、教員養成段階における、自然災害等に対する防災・減災に関する教育カリキュラムを開発することを目的として開始された。本年度は研究の初年次に位置付けられ、主に、小・中学校の教科書に掲載されている情報の整理を中心に研究を行った。 2011年3月11日の東日本大震災では、地震の揺れに伴う建物の崩壊の他に、大津波の発生により大規模な災害が発生した。それ以来教育現場では、地震や津波などの災害発生時における避難訓練や、教師に対する災害時の対応等に関する講習会やシンポジウム等を通じた教育が施されるようになってきている。しかしながら、大学の教員養成段階では、未だ、防災・減災に関する教育カリキュラムはほとんど構築されていない。愛媛県では、今世紀前半に起こることが予測されている南海トラフ巨大地震やそれに伴う津波の被害の発生が予想されている。一方、自然災害は地震だけでなく、近年特に被害が多く発生している異常気象による豪雨などへの対策も重要となってきている。 以上のような背景に基づき、本年度は、自然災害、防災・減災に関する小・中学校での各教科での取扱いの調査を行った。その結果、小・中学校の教科書に掲載されている自然災害、防災・減災教育に関する内容は、科目、分野が多岐にわたり、複数教科で断片的に扱われていることが明らかとなった。さらに、自然災害が発生した際の対処行動(避難、連絡、情報の入手等)については、あまり系統的な取扱いがなされていないことが明らかとなった。従って、教育学部の学生には、対象とする学校種や教科等の専門性にとらわれず、自然災害や防災教育について、養成段階における系統的な教育カリキュラム履修の必要性が明確となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は本研究計画の初年度である。当初の研究計画では、(ア)自然災害、防災、減災に関する、小・中学校での各教科での取扱いの調査、(イ)自然災害発生の基礎知識の整理(教材化)、を行うことにしている。現在までの進捗状況として、(ア)の小・中学校における教科において、当初の予定どおり、複数の教科書会社発行の教科書における取扱いに関する調査を行った。さらに、各教科で扱っている自然災害や防災に関する項目の関連づけと系統化を行った。項目の関連づけと系統化を行うため、教科書内での取扱いを、災害発生前、災害発生時、災害発生後の三段階に区分を行い、それぞれの段階において知識と実践項目に分類し15項目に整理を行った。分類項目は以下のとおりである。【災害発生前】[知識]①各自然災害の基礎知識、②避難地の場所、③避難地までの経路、④各災害発生時の危険な場所、⑤非常時の連絡先、連絡手段、⑥防災設備の使用方法、[実践]⑦各災害が発生した際の対処行動(避難訓練)、⑧非常用持ち出し袋の準備、⑨傷の手当、応急処置、【災害発生時】[実践]⑩各災害が起きた際の対処行動、⑪避難、⑫連絡、⑬正確な情報の入手、⑨傷の手当、応急処置【災害発生後】[実践]⑭避難地での生活、⑮復旧・復興活動。これらの分類項目に従って、教科書内容を精査し、教員養成段階における自然災害・防災教育に関する授業カリキュラムの構築を試みた。 さらに、②自然災害発生の基礎知識の整理に関し、最新の文献等を入手し、必要な項目の抽出を行った。特に、昨年度は、愛媛県において豪雨災害が発生したため、関連する情報の入手と整理に時間を費やした。また、南海トラフ巨大地震の発生を想定し、愛媛県宇和島市周辺を中心に、地形や街のつくりの特徴等を中心にフィールド情報の収集を行った。現在収集した情報を元に、データの視覚化に向けて図表類の整理を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、愛媛県特有の自然災害に関する情報を整理し、教育学部における防災・減災教育カリキュラムを構築する。特に、カリキュラム構築の上で以下の点に注意し研究を遂行する。①小・中学校の理科や社会科、家庭科等での扱い方を踏まえつつ、内容を構成する。②文系志向の学生にも理解しやすいよう視覚的なツールを多用した教材開発をする。③地域の実情に即した防災・減災対策を提言する。④最終目標として、「自然災害論」のカリキュラムを構築する。 2019年度は、自然災害発生時の地域固有問題理解の整理を進める。地域固有問題として、(a)沿岸地域・島嶼部の学校における自然災害への対応(海岸地形と津波の増幅、避難場所・経路の確保等)、(b)山間部の学校における自然災害への対応について(地滑りしやすい地層と岩石、集中豪雨による土石流や地滑りの発生)、(c)市街地の学校における自然災害への対応について(南予地域での津波被害と避難対策、東中予地域での地震、河川の氾濫、安全な通学路の確保、等)、(d)地震や津波の二次災害について(原子力発電所の事故発生時の対応、自治体の対応状況等)、(e)災害時・避難時の生活について(家庭との連絡、避難行動、避難場所での生活)、等が想定される。さらに自然災害が多発している諸外国の状況等の視察として、(f)自然災害が多発する国の災害対策状況調査(火山災害、地震災害が多いインドネシアの実態調査)を計画している。これらの地域固有問題を教員養成段階でのカリキュラムにどのように組み込むのか検討を進める。さらに、2020年度は、教育学部学生への教育実践と問題の洗い出し・成果の公開について活動を進める。そのための具体的方策として、(a)「自然災害論」の試行授業実施、(b)授業内容のリフレクション・改善、(c)「自然災害論」授業カリキュラムの完成、(d)成果の発表、等を計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、愛媛県内への調査旅費を計上していたが、2018年度は当該旅費を使用しての調査を行わなかったため、約64000円の残額が発生した。次年度に繰り越すこの残額は、愛媛県内の豪雨災害発生地域や津波の襲来が予想される地域の調査旅費として活用する予定である。
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