研究課題/領域番号 |
18K02637
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研究機関 | 熊本県立大学 |
研究代表者 |
中井 賢一 熊本県立大学, 文学部, 教授 (90580960)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 古典文学 / 国語科教育学 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、学習者との心的距離が近く、且つ成長のモデルとなる物語等を用いて多読用教材を編み、高校・高専現場に発信することで「古典ばなれ」対策に資することにある。具体的には、突発する天災・人災の中で逞しく生きる子ども像、即ち〈厄災を乗り越える子ども物語〉を、活字化されていない新資料も含め、様々な時代から集成し、一部日記や漢文記録を加えた短篇集形式のサイドリーダーを編む。〈厄災を乗り越える子ども〉という軸があることで、学習者が作中人物と自己を重ねやすくなるだけでなく、〈厄災を乗り越える〉生き方モデルや意欲、備え方も吸収が可能になる。また、短篇集的サイドリーダーであれば、検定教科書と並行し、それには掲載されない作品を幅広く読むことが容易になる。また、本教材は、臨床教育学の見地から有効性を検証の上、テキスト・注釈・指導案の例に分割する。なお、将来のICT教育環境を見据え、冊子版・冊子データ版・デジタル教科書版の準備も計画している。 研究所年度となる30年度は、奈良~平安期の作品を対象に、資料収集・分析と教材化を行った。教材作成に際しては「A.資料収集」「B.当該場面の抽出」「C.具体的な教材化」の順で作業を進め、記紀やうつほ、源氏等の有名作品は無論、松浦宮や栄花、有明の別等、未注目の物語作品、及び蜻蛉、小右記、権記等の一部日記(含む漢文記録)作品を対象に、天災・人災の二面から〈厄災を乗り越える子ども〉のストーリーを抽出し、教材化を試みた。 なお、本年度の対象作品は、昨年度までの科研費研究がプレスタディにもなり、「A.」「B.」は概ね済んでいたため、不足する本文・厄災・漢文資料等を計画的に収集の上、主に「C.」に注力し、「注釈」と「指導案の例」の作成を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度に対象とした作品群については、昨年度までの科研費研究がプレスタディとなっていたため、比較的スムーズに作業が進んだものと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画の通り、31年度は平安~鎌倉期、32年(2020年)度は室町期の作品を対象に、30年度同様に資料収集・分析と教材化を行う予定である。鎌倉・室町期については、擬古物語や御伽草子等、玉石混淆の作品群もあるため、資料内容と教材価値の吟味には特に力を入れる。戦を重大な人災と捉え、軍記物語も研究対象とするが、過度に残酷な描写は、教育的見地から避ける。木幡の時雨等や、活字本文が未公刊の栗栖野物語・葉月物語絵巻、未注目の古巣物語等も取り上げ、適切に教材化したい。なお、前科研費研究の経験に照らし、教材の編集作業に長時間を要することが予見されるため、32年度後半から準備に入る計画である。 最終年度となる33年(2021年)度は、成果の検証と教材編集を行い、広く公開できるようにする。既存教材に掲載されにくい作品が多いため、編集作業においては、高校教材としての適否を、教育学的に再検証する必要がある。従って、申請者自身の判断だけでなく、外部有識者の専門的知見も参考にする。また、新資料の掲載、既存書籍からの転載についても、規定を厳守する。教材は、目的に応じて使い分けできる冊子版・冊子データ版(CD-ROM)・デジタル教科書版(DVD-ROM)の3タイプを準備したい。なお、本年度末には、本研究全体の成果を最終報告書として取り纏める。
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