本研究は、学校音楽教育研究において、教科学習経験を構成する過程とメカニズムを国際比較の観点から明らかにしようとするものである。研究代表者は、これまで潜在的カリキュラム論から着想を得て、教師と児童生徒の学校音楽経験を「学校音楽のカリキュラム経験」と呼んで対象化し、教師と児童生徒がどのように経験を構成するのか、という課題にとりくんできた。そして、「学校音楽のカリキュラム経験」を構成する装置として「学校音楽文化」を仮説し、学校音楽文化全体から教科のカリキュラム経験が構成されるのではないかという「学校音楽文化理論」を仮説として提出してきた。本研究課題では、その仮説をより強固なものにするため、国際比較の観点から教科学習経験を構成する過程のメカニズムを検討する。 2023年度は、コロナの5類移行に伴い、海外での現地調査が可能となったことから、イタリアにフィールドを限定し、聞き取り調査を実施した。 また本研究のテーマ「学校音楽文化」においては、科研費研究成果公開促進費の助成を受け、著書を刊行することができた。これによって、「仮説」がより強固なものとなり、国際比較へと大きな道筋をつけることができた。 本年度の成果として、①学校における文化伝達過程は、単線的でなく複線的であり、教科授業を超えてダイナミックで豊かであること、②特にイタリアにみられる社会包摂の観点をとりこむことで、これまで見えにくかった学校音楽文化を明らかにし得る可能性と、コミュニティを変革していく可能性を見出すことができることなどを実証的に明らかにした。これによって従来教科教育学研究において、「教科」から「はみだしたもの」に目をむけることによって、学校音楽教育研究の可能性を大きく開くことができるのではないか、という仮説を提出した。
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