本研究の目的は、通常の学級に在籍する発達障害のある児童を含むすべての児童に必要なことばの育ちやことばの学びを検証し、インクルーシブな学びの実現を見通した国語科授業の理論と実践の構築に向けて、新たな小学校国語科授業カリキュラムを開発することにある。 2018年度では、小学校国語科授業カリキュラムの開発に向けて、そのカリキュラムの基本原理を見出すことを主な目的とし、「深い学び」という観点から研究をすすめた。 2019年度では、小学校学習指導要領国語編が告示された2017年以降の目標論をめぐる議論を整理・考察することにより、カリキュラムにおける「目標論・学力論」に着目して検証した。 2020年度では、学習者の多様性という観点から、国語科教育の理論や実践のあり方を考察した。特に、発達障害のある学習者、外国につながりのある学習者、多様な性を生きる学習者の実態と、それぞれの実態を踏まえたことばの学びに着目することで、カリキュラムの原理(基盤となる考え方)を検証した。 研究の結果、国語科教育のカリキュラムに必要な観点として、1.非言語(ノンバーバル)、2.連続性(スペクトラム)、3.「私」という個別性、4.批判的リテラシー、5.エンパワメント/リカバリー、という5つの観点が導き出された。生きること自体が困難な状況に追いやられている子どもたちに必要なことばの力とは、複数の人に相談(依存)したり、愚痴をこぼしたりして、その日を生き抜く力にある。学習者には「私」=自分自身の生きづらさを見つめ、その生きづらさを言語化できる力と、他者と共有できる力が求められている。以上のようなことばの力を学習者が獲得するための、さらなる実践的・臨床的な研究の必要性が明らかになった。
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