本研究は、日本の旧学制下において、あらゆる国民に期待された、公共的問題解決を志向するプロジェクト活動に注目するものである。そして、技術・職業教育に焦点を合わせながら、主要には総力戦体制化との関連により当該プロジェクト活動の歴史的形成過程を分析し、その特質と教育学的意味を解明しようとするものである。 本研究はこの目的の下、主に次のことを解明した。第1に、帝国日本の総力戦体制化は、厖大な数のノンエリートの働く若者たちに対して、世界と対峙する帝国日本を強く意識させながら、身近な労働現場の改善を中心として、公共的課題を解決するための汎用的技術開発などをめざすプロジェクト活動に近い問題解決活動の推進者に育成することをめざしていたと見られたことである。そして第2に、このため、農村部においては、農業従事者が就業構造上の主力を占める時代の若者が、自らが生きる地域において、現代的な複合的・多角的農業を営む上で不可欠な、農作業上および農業経営上の実際的で科学的・合理的な問題解決能力の基礎的な部分を育むことをめざしていたと見られたことである。 以上のように、本研究を通して、第1次世界大戦以降の日本の総力戦体制化は、アジア・太平洋戦争の時代に至って、戦後「新教育」と事実上地続きの、プロジェクト活動に技術・職業教育的活動を国民教育の新たな要素として構築するに至ったと考えられた。こうした研究成果は、学界の従来の定説に修正を迫るものとなっている。日本の旧学制下のプロジェクト活動は、子どもの自発的な活動を重んじる大正自由教育の中で一時勃興したものの、総力戦体制への準備が本格化した1930年代には衰退してしまったとの見方が定説になってきたからである。日本の大衆的な青年期教育の歴史及び技術・職業教育の進歩的側面へのより一層の着眼が必要である。
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