研究課題/領域番号 |
18K02661
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
渡辺 敏明 信州大学, 学術研究院教育学系, 准教授 (90220904)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 学校体育 / 小学校体育科 / スポーツ運動学(発生運動学) / 運動アナロゴン / 促発指導 / 動感 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,小学校体育科の教材づくりにスポーツ運動学に立脚した「運動アナロゴン」の視点を導入して,低学年領域の学習教材を体系化することにより,後々の体育学習を支える有意味な学習内容を持つ運動遊びと教材構成で低学年領域の学習状況の改善・充実を図ることにある。 平成30年度は,スポーツ運動学の「発生・構造・伝承」の3つの柱から「低学年における体つくり運動領域」の教材解釈を行い,それに基づく教材構成(運動プログラム)を作成して,小学校現場及びN県体力向上事業において低学年児童に学習指導を行った。加えて,教員研修プログラムを作成し,各地域で開催される体育研修会及びN県体育センターの主催する教員研修会等に参加した小学校教員を対象に小学校における体つくり運動領域の特性と教材内容についての講義及び実技研修を行った。 低学年児童に対する運動プログラムの学習指導を行った実践の観察結果及び印象分析の結果から,低学年児童が違和感なく運動に取り組んでいること,新たに動きが身に付く「動きの形態発生」が促されていることが確認された。低学年児童によるアンケートの分析結果からも,本研究の教材構成(運動プログラム)によって運動へのなじみの発生が触発されていることが明らかとなった。 また,小学校教師による教員研修プログラム実践後のアンケートの分析結果から,本研究で作成した教員研修プログラムは,小学校における体つくり運動領域の教材解釈を転換し,単独単元としての構成や学習指導のあり方を考える契機として機能したことが確認されたことから,授業改善に向けた認識の転換を促す点において有効であったといえる。この研究成果は,第38回日本スポーツ教育学会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は,スポーツ運動学に立脚して「低学年における体つくり運動領域」の教材解釈を行い,主に徒手で行う運動遊びの充実を図った教材構成(運動プログラム)を発生現象学に基づく枠組みに添って作成した。作成した運動プログラムに基づいて小学校現場及びN県体力向上事業において小学校低学年児童に向けた学習指導を行ったが,実践現場の事情により単元として展開することがかなわなかった。そのため,単元展開の中で成果確認をしていく必要性が課題として残されたものの,一定の成果は得られたと考えている。また,本年度はまずもって低学年における体つくり運動領域の教材解釈と教材構成に焦点化して研究を進めてきたが,同様の方法を用いることによって,小学校体育科の運動遊び領域(低学年領域)を網羅するかたちで本研究を展開していけると考えている。 作成した教員研修プログラムについては,今後も教員研修会での実践機会を継続していくことで,小学校教員の置かれている実情を踏まえながら,児童の多様なあり方に対応するための情報収集と検討を重ねて,普遍妥当的な教材構成(運動プログラム)を浮き彫りにしていくことが可能になると考えている。その一環として,次年度では認識を転換した小学校教師の現場にお願いして,運動遊び領域(低学年領域)の単元のなかで教材構成(運動プログラム)の実践的検討に取り組むことを予定している。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度に引き続き,小学校体育科の運動遊び領域(低学年領域)の教材解釈と教材構成(運動プログラム)の作成に向けて,スポーツ運動学に立脚した検討を進めるとともに,各領域の単元試案の検討を行う。加えて,小学校低学年体育の典型的なつまずきについて学校教員及び文献等から情報を収集し,それらのつまずきを解消するための練習方法の選択と開発のための検討を行う。 各領域における教材構成(運動プログラム)の設計には,児童の発達段階に応じた運動能力の実態を把握しながら検討を進めることが重要である。そのためには設計した教材構成(運動プログラム)を教育現場で実践的に確認する必要があると考えられることから,小学校の現場に依頼して実践を行う。加えて,教材構成(運動プログラム)の実践が適切な学習活動となるように多層化ステージを設けて練習課題を配置するための検討を行う。練習課題は,児童にとって有意味な学習内容を含みながら,児童が取り組みやすい運動遊びの形態へと修正するとともに,各ステージのつながりに整合性を持たせるための検討を行う。 これらの実践と検討に基づいて,国内外の研究動向との対比において,日本の学校教育に適した教材構成(運動プログラム)となる開発につなげることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度に未使用額が生じた理由は,本研究計画の中で当初予定を組んでいた一連の出張が台風による交通機関の運行停止によって中止せざるを得なくなったことによる。また,当初予定よりも多くの小学校現場で実践(調査)を行う必要が生じたことに伴い,国内の調査・研究の一部を次年度に繰り越したため未使用額が生じたことによる。
(使用計画) 2019年度請求額と合わせて,調査・研究のための旅費として使用する。
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