詩を解釈する際、通常詩的想像力や詩的感受性が大きいことは言うまでもない。ただし、それらに拠る読み方は感情移入を前提とするがゆえに、例えば前衛的な詩、あるいはコンクリート・ポエトリー作品のように、あえて読者の感情移入を拒否するかのような作品を読み解くための方法としては有効とは言えない。このような詩作品を読解するためには、感情移入に基づく想像力や感受性ではなく認知的側面に重点を置いた方法論が必要となる。 その具体化として、イギリスの言語学者ポール・グライスの言語理論を応用しながら、詩を言語表現として認知するプロセスを捉え直し、グライスが提唱する「協調の原理」や「会話の4格率」を整理した上でコンテクストの重要性を明らかにした。さらには、これまで論究してきた草野心平「冬眠」に加え、萩原恭次郎の実験的な詩編「ラスコーリニコフ」(詩集『死刑宣告』所収)を取り上げ、研究史によって提示されてきた様々な読解がコンテクストの設定と密接に関わる点を論証するとともに、あらためてその点を一般論として敷衍化し、文学作品の読解それ自体と「協調の原理」との関係を明らかにした上で、その成果を論文「文学作品の読解とはどのような行為なのか―文学コミュニケ-ションと協業の原理 草野心平「冬眠」・萩原恭次郎「ラスコーリニコフ」を例として―」にまとめた。 また、大学の授業「日本文学研究ⅠB」などでコンクリート・ポエトリーを取り上げ、創作活動を含め受講者の詩表現への理解を広げることによって研究成果の授業への還元に努めた。加えて、大阪教育大学附属池田中学校の公開授業(令和4年10月17日(月)6時限 於2年D組)で、茨木のり子の詩作品「わたしが一番きれいだったとき」を教材とした授業実践に助言指導者として関わり、詩教育の新たな展開という観点から当日のみでなく授業構想段階を含め助言等を行った。
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