研究課題/領域番号 |
18K02664
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
吉永 潤 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 教授 (50243291)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 未来創出型社会科授業 / ゲーミング / シミュレーション / ディブリーフィング / 主体性・主体知 / 協働的問題解決能力 |
研究実績の概要 |
本年度実施した「未来創出型社会科授業」に関する開発・実施は、小学校(歴史)において1点、高校公民科において1点である(いずれも現場教師と共同)。 小学校においては。歴史学習において学習対象となる歴史人物(吉田松陰を選定)に関する意思決定と行動に関する小グループ別ロールプレイ課題を実施し、教育効果を①通常型授業、②前年度の同題材によるロールプレイ型授業、と比較した。通常型授業においては学習対象の「正確な」追体験的理解が目標となるが、本課題においては、歴史状況の学習の上で、各学習者の解釈による「未来創出」と「創造的追体験」が求められ、その効果として,対象とした歴史人物の「目で」事象を見る「見方・考え方」の獲得が予想される。昨年度試行においては、この「目で」現代日本を理解・評価する課題、本年度試行においては、同時代事象(明治維新)を理解・評価する課題を、それぞれディブリーフィング課題として設定した。結果として、同時代事象を対象とした課題の達成が現代事象課題よりもすぐれた質のものとなることが確認された。活動体験の活用に関する事後課題の設定方法に示唆が得られた。 高校においては、生徒(小グループ)に疑似的に政党を結成させ、「政見放送」をタブレットで自撮りさせて発表・相互評価させるという主権者教育のゲーミング課題を実施した。通常、内外の主権者教育における学習課題は、①現実の政治事象(政党や政治家)が対象とされ、またゲーム的課題が設定されても②主に模擬投票にとどまっている。対して本課題は、①既存のではなく、これから解決すべき政治的課題を学習者に模索・発見させる「未来創出型」授業であり、かつ②選ぶ立場から選ばれる立場に学習者の疑似的立ち位置を変換している。結果として、少なくとも従来の座学型授業と比較して、政治への興味と主体的参加意欲の高まり、および政党政治の意義への理解の深まり、が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この数年、教育現場での研究試行が著しい制約を受けていたが、本年度は状況が著しく改善し、現場での研究実施がほぼ可能となったことから、一定の研究の進展と下記のような諸知見を成果として得ることができた。 本研究テーマにおいては、「未来創出型」社会科授業開発として、核となる活動(ゲーム、ロールプレイなど)の開発とともに、次のような点に関して解明すべき課題がある。①活動後のディブリーフィングにおいて、活動体験の発展的活用を図らせる課題をどのように設定するか。②授業を社会実装する上でどのように単元、カリキュラムに位置づけていくか、③どのような観点、手法で学習効果の評価を行うか。要するに、授業が学習者にとって「楽しい」のみならず、、それによって意義ある学習が成立すること、その現場での実施が可能であることを保証、実証する必要がある。 本年度の現場での授業試行実施においては、上記に関してそれぞれ次の成果があった。①ゲームなどの活動が設定ないし選定した課題状況と、事後にディブリーフィングないし事後の授業において活動体験を踏まえて取り組ませる活用課題との「距離」が適切である必要があることが確認された。②現場教師との共同研究により、実際の学校カリキュラム内での授業実施、及び前年の授業とのタテの効果比較が可能となった。③学習効果評価において、学習者の興味、関心、意欲といった「主体性」面やコミュニケーションと協力の意義理解といった「協働」面すなわち「非認知」面の評価と、学習対象に関する理解の深まり、広がりや評価能力の高まりと言った通常の意味での「学力形成」面すなわち「認知」面の両面からの評価が必要かつ有効であることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、研究(延長含む)年度最終年度として、次のような課題がある。 ①本年度実施の試験授業の効果に関する遅延調査の実施:本年度実施たもののうち、高校での試験授業に関しては学習者の追跡調査が可能であるため、アンケートによる遅延効果調査を企画している。直後調査の質問内容の反復に加え、事後の学習や生活体験、また(ニュースなどの)社会事象認識の中での活動体験の有効性の実感やその内容を問う。 ②個別研究成果の発表:高校で実施の実験授業に関して、国際学会ではInternational Simulation & Gaming Association、国内では全国社会科教育学会での報告を予定。 ③研究成果の集約と公表:本研究のテーマである、「可能的事実」を学習者自身が開拓する「未来創出型」授業の予想される教育効果、その実際の実施事例、教育効果を増進する事後学習課題設定、学習効果評価の観点と手法、学校教育への実装可能性、に関して研究成果を集約し、著作としてまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
感染状況により、実験授業実施及び学会成果発表に著しい制限を受けたため。2023年度は延長参集年度として、遅延調査、国際・国内学会参加と発表、及び成果報告出版準備に残額を使用する。
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