本研究の要点は、社会科授業構成における従来の「事実」概念を拡張し、「事実」と「虚構」の中間に「可能的事実」を想定することを推奨する点にある。これによって、学習対象の社会的諸事実を、学習者にとって「記憶すべき事実」から「対処すべき状況」へと変化させることが可能となり、また学習対象の諸概念が、学習者において「未来創出」のための知的道具として活用される道を開くと考えられる。 研究最終年度である2023年度には、高等学校地歴科及び公民科で実施可能な課題解決型授業それぞれ1点の開発と効果検証を行い、公民科授業に関しては国際学会及び国内学会での成果発表を行った。 地歴科では日本史探究を想定し、「一遍上人絵伝」を用いてその一つのシーンを示し、その後の展開を「ドラマスクリプト」として作成すること(グループ作業)を求める授業を開発、実施した(大学生対象の試験実施)。本課題では、仏教や鎌倉新仏教に関する知識・理解が必要で、既習事項をもとに「可能的事実」を構成するものとしている。効果検証の視点として、「楽しさ」とともに、仏教や鎌倉時代の理解や興味増進を促したか否かを問い、一定の成果を得ている。 公民科では、主権者教育として、生徒グループに仮想の新政党の立ち上げを求め、趣旨と政策を「政見放送」として自撮りさせるという授業を開発、実施した。生徒と政治的実践の距離を縮めるためには、有権者としてのみではなく被有権者としてのロールテイキングを行わせ、政治・政策を選択するのではなく構想・提起する体験を組織することが有効と考えた。本実践でも、生徒の政治制度や選挙制度に関する学習知識の活用が求められる。効果検証の視点として、政治への自己効力感、及び現実政治への関心の増進如何を測定し、一定の成果を得た。本実践は高校での実施を行い、その成果を国際学会及び国内学会で報告している。
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