研究課題/領域番号 |
18K02669
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
草原 和博 広島大学, 教育学研究科, 教授 (40294269)
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研究分担者 |
大坂 遊 徳山大学, 経済学部, 講師 (30805643)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 教師教育 / 教師教育者 / 専門性開発 / セルフ・スタディ |
研究実績の概要 |
本研究は,教師教育者の専門性開発の方略を,海外先進地の取組とそれを支える思想と方法論を手がかりに開発することを目的としている。本目的を達成するために,1年次は,①ヨーロッパのなかでも教師教育の研究がとくに盛んで,教師教育者の専門性をスタンダード化しているオランダやアメリカ(例:アムステル自由大学,ボストン大学)または②セルフ・スタディの研究拠点であるオーストラリアやノルウェー(例:モナシュ大学,ノルウェー科学技術大学)の取組を,実地調査と参与観察に基づいて記述し,分析することを計画した。研究協力者との調整の結果,以下の調査・研究を実施し,一定の成果を上げることができた。 第1に,ノルウェー科学技術大学のNafol(大学間連携の博士課程院生支援プログラム)の取組とその理念を解明できたことである。具体的には,①教師教育の質を高めるには,研究成果に基づく教師教育が欠かせないこと,②教師教育者が実証的な研究方法論を習得し,実践的な研究成果を発表することが,教師教育の質を高めること,③研究力強化には,教師教育者相互のコーホートづくりと世界最先端の研究者によるチュータリングが効果的なこと,④研修中の挨拶や社交を通じて学術的・文化的な態度(教養)を養うことも意図されていること,などが明らかとなった。 第2に,アムステルダム自由大学の専門研修(教師から教師教育者への移行支援プログラム)の取組とその方法論を解明できたことである。具体的には,①教師と教師教育者に求められる専門性は性格を異にすること,②しかし,教師に期待することと教師教育者の振る舞いは,つねに一貫させることが重要なこと(言行一致の原則),③教師教育の質は,教師教育者としてのアイデンティティが構築されない限り向上しないこと,④これらの理解は,ワークショップ等で教師教育者の省察を支援する過程で達成されうること,などが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上述のとおり,当初の目的が達成できた。 さらに,ノルウェー科学技術大学からKari Smith氏を,アムステルダム自由大学からAnja Swennen氏を招聘し,東京で1回,広島で2回のセミナー・講演会を実施することができた。実施にあたっては,武蔵大学・教師教育研究会(代表:武田信子)のメンバーと連携することができた。 これらの企画を通して,研究成果を日本の教師教育者(指導主事,実習校のメンター教員,教職課程の大学教員,教育学を専攻する大学院生ら)に還元できたことは,特筆に値する。
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今後の研究の推進方策 |
2年次は,オランダやノルウェーの取組を手がかりに,教師教育者(候補者)の「専門性開発(professional development)」に資するプログラムを開発し,試行することを目的とする。具体的には,①指導主事,②実習校のメンター教員,③教育学を専攻する大学院生,いずれかを対象に,①現職教員の課題解決を支援する研究指導法の開発プログラム,②教育実習生の実践的指導力を高めるメンタリング法の開発プログラム,③教職課程学生の教科観の再構築を支援する講義・演習の開発プログラム,を構想する。 これらの計画を,次の三段階で実施する。2019年4月~8月:プログラム開発→→2019年9月~2019年10月:研究協力者との面談,試行計画の相互理解づくり→→2019年11月~2020年3月:試行プログラムの実施,検証(課題の洗い出し)。 これらの計画の遂行に困難が認められる場合は,アイスランドの教師教育者専門力向上プログラム(博士課程教育)の調査に切り替えることを厭わない。アイスランド大学では,セルフ・スタディーを基盤にした先進的な教師教育者の養成と研究指導が行われている。オランダ,ノルウェーの事例に加えて,アイスランドの取組を追加調査することで,基礎的資料の充実を図ることも視野に入れたい。先進地のプログラムの比較考察を踏まえ,3年次のプログラム開発の質向上につなげたい。
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