研究課題/領域番号 |
18K02669
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
草原 和博 広島大学, 教育学研究科, 教授 (40294269)
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研究分担者 |
大坂 遊 徳山大学, 経済学部, 講師 (30805643)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 教師教育者 / 教師教育 / セルフ・スタディー / 専門性開発 / アイスランド / ノルウェー |
研究実績の概要 |
本研究は,教師教育者の専門性開発の方略を,海外先進地の取組とそれを支える思想と方法論を手がかりに開発することを目的としている。本目的を達成するために,1年次は,ヨーロッパのなかでも教師教育の研究がとくに盛んで,教師教育者の専門性を組織的に実施しているノルウェーのNafolの調査を行った。2年次は引き続き,同じ北欧のアイスランドのアイスランド大学の調査を行い,従前の成果との比較考察を行った。本年度の成果は,大きく2点である。 第1に,ノルウェーのケースと比較して,意図的・組織的な教師教育者の養成が行われていない点である。むしろ博士課程の大学院生が学部教育等に参画することで,正統的周辺参加を促す構造が確認できた。これはアイスランドの人口規模が小さいこと,教師教育者を養成したり,博士号を授与できる高等教育機関が限られていることなども背景となっていると推測できる。 第2に,ノルウェーのケースと比較して,self-studyが博士課程の大学院生として承認・奨励されている点である。これは当該コースの指導教員の研究関心・専門性にも起因するが,教育に従事している現職教育者に自らの専門職性を質的に記述し分析させることが,教師教育者の養成の観点からみても有用と考えられていることが背景になっていると推測される。 第3に,ノルウェーのケースと比較して,教師教育者への参入障壁が小さい点である。これは,教師教育が①実務経験を基盤とした実務家系教員と②教育学研究を主任務とする研究者系教員に緩やかに分化していること,教師教育者に求められる資格や能力の標準化が行われていないことなどが背景として考えられる。 北欧では,教師教育者の研究力向上をもって教師教育の質を担保する傾向にあるが,その実現方略には政治的・文化的多様性が見らえることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第1に,上述のとおり,教師教育者養成の考え方の比較考察を進めることができた。self-studyの方法論で博士論文執筆を行うともに,教員養成課程で学部教育に従事する大学院の聞き取り調査を行うことができた。分析は来年度の課題となる。 第2に,これまでの成果を取りまとめた論文等を多数発表できた。書籍1冊,論文4本,学会発表等1本,をまとめることができた。 これらの結果は,当初の予定を上回る成果である。しかし,日本の教師教育者養成のカリキュラム開発では遅れを取っている。これらを総合的に勘案し,「おおむね順調に進展している」と評価したい。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は,以下の研究を行う。 第1に,2020年11月~2021年2月にかけて,アイスランドとオーストリアの追加調査を行うことである。他国に比して教師教育者を意図的・計画的に育成するシステムが脆弱で,研究者養成に従属している大学院教育のカリキュラムとその改革の動きを把握することで,日本の教師教育者養成システムの構築に示唆を得る。 第2に,第1の研究と並行して,欧州の教師教育者養成の考え方の概念整理を行うことである。意図的・計画的な専門性開発のシステムが構築されているオランダやノルウェーと構築されていないアイスランド・オランダ等を比較し,教師教育者に期待される専門性の共通性と差異性を文献ベースで解明していく。 第3に,2020年4月~2020年10月にかけて,日本の教師教育者養成の基本概念とプログラム案を開発することである。本来ならば上の12の結果を受けて行うべきであるが,新型コロナウィルスの感染拡大に伴い,海外調査が実施できない。そこで昨年度までに入手したプログラム事例を手がかりに,3を先行して実施する。とくに①教育実習指導者・指導主事等のメンタリング力を育成するプログラム,②教職課程担当者のカリキュラムデザイン力を育成するプログラムの開発を行い,今日的な課題に応える。
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