令和5年度は、新型コロナウイルス感染拡大によって研究期間が延長された6年目(最終年度)である。5年目までの研究に引き続き、学校当事者へのインタビュー調査、文献による事例分析、専門家へのインタビュー調査により、民主主義教育やそこでの生徒参加の全体像について研究を続けることが課題であり、具体的には、生徒参加の対象や方法の類型化や体系化を行うことであった。 またドイツの民主主義教育も新型コロナウイルス感染拡大によって大きな影響を受けたため、当初の研究計画に加えて新型コロナウイルス感染拡大によってドイツの民主主義教育がどのような影響を受けたかについても取り組んだ。その結果、次の3点が明らかとなった。第一は生徒の「民主主義を生きる」体験および社会参加の欠如である。ドイツでも実施された学校閉鎖によって生徒の「民主主義を生きる」体験の欠如が生じ、社会参加の機会も減少した。第二に反ユダヤ主義と陰謀論の拡散である。コロナ禍において生徒はネットの影響を受けやすくなり、反ユダヤ主義や陰謀論へ巻き込まれることとなり、学校でも十分な対応ができなかった。第三に教員の過重負担と学校教育の機能不全である。これはコロナ禍を原因とするものばかりではないものの、前述の二点と併せて考えると、民主主義教育の実践が十分に進められない状況に陥ったという点で影響は大きかった。 他方、生徒参加の対象や方法の類型化や体系化に関してドイツでの調査で明らかになったのは、各州の民主主義教育政策がその特色を強める傾向にあるという点である。政治教育の色合いが強い政策を採る州からドイツ民主主義教育学会が掲げる理念を忠実に実践する州まで、各州の民主主義教育政策は独自の方向に進み始めていることが明らかとなった。今後、生徒参加の対象や方法の類型化や体系化を精緻化させる上で、各州の民主主義教育政策との関連性を重視すべきことが明らかとなった。
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