本研究は2人の女性音楽教育者の残した業績と教育理念を明らかにすることから、現在の音楽教育への示唆を得ることが目的である。2020年度、2021年度は小林つや江(以下つや江)について考察するものである。つや江は、〈まつぼっくり〉の作曲者であることは広く知られている。また東京教育大学附属小学校(以下附属小)の音楽教師として長らく尽力し、リズムに着目した実践を行っていたことについての先行研究はいくつか報告されている。このことをふまえつつ2020年度は明らかにされていない次の2つについて検討した。 第一につや江が附属小に勤務することになるまでの過程について松本女子師範学校本科第一部から東京音楽学校で学んだカリキュラムからその学びを探った。 第二につや江が作曲した〈まつぼっくり〉以外の「子どもが書いた詩に曲をつけた作品」を整理し、その特徴を明らかにした。つや江にとって作曲することは、子どもが日常の生活の中で感じたり気付いたりしたことを等身大のことばで表したもの、あるいは子どもが何気なく発したことばをつや江自身が詩という形に整えそれにメロディーをつけて、歌として完成させることだったことが示された。さらに、統計的に検討しつや江の作品には4分の2拍子、ハ長調、速度は四分音符=96という黄金比の存在を導きだすことができた。既成の歌だけでなく子どもの内面から発せられたことばやつぶやき、あるいは子どもの感性が映しだされた子どもの詩などにメロディーを乗せて歌として完成させることによって歌は身近なものであることを子どもに伝えたかったと考える。 この「子どもが書いた詩に曲をつけた作品」の資料は、つや江と同居していた近藤氏が大切に保管していることがわかった。近藤氏は調査研究のために書庫を開放し協力くださった。このことによって、つや江の残した作品を整理しその特徴をまとめることが可能となった。
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