研究課題/領域番号 |
18K02683
|
研究機関 | 武蔵野美術大学 |
研究代表者 |
森 敏生 武蔵野美術大学, 造形学部, 教授 (30200372)
|
研究分担者 |
丸山 真司 愛知県立大学, 教育福祉学部, 教授 (10157414)
玉腰 和典 明治学院大学, 心理学部, 助教 (60797174)
石田 智巳 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (90314715)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 学習理論 / 学習モデル / 生態学的な複雑性 / スポーツ活動システム / 教材構成 / 学習活動の対象化 / 問題状況 / 共創 |
研究実績の概要 |
本研究は、体育実践における学習活動の創発性の実態に迫り、それに相応した指導と評価の一体的関係を明らかにすることを目的としている。かかる目的に対し今年度の研究課題は、体育実践の学習のリアリティに迫るために生態学的な複雑性という方法論的視座が必要であることを示すことである。 最近の学習理論及び学習科学は、実践的文脈とリアリティのもとで学習を再考することを目指しており、学習における目標達成にとどまらず目標創出や、学習者自身が他者とともに学習手段を共有しつつ相互作用しながら「知識創造」する学習モデルに着目している。新たな学習理論・モデルは知的・概念的教科の学習に関するものであるが、それは、身体化された知や、現実の物的学習環境・条件・手段のもと、これらの対象や条件を集団的に共有しつつ展開される体育の学習によりマッチしており、体育の学習の解明にこそ有効である。これら新しい学習理論・モデルは、知識創造や知識構築、学習の拡張性に関する理論に依拠しており、それらは共通して、生態学的な複雑性を持つシステムの自己組織化というダイナミックなプロセスの探求に基礎づけられている。 教科の学習活動の生態学的な複雑性は、教師の指導、教材構成(再構成)、子ども(集団)の学習の三者関係をベースに捉えることができるが、教材構成(再構成)の複雑性とダイナミックスは他教科とは異なる体育に固有の特徴である。体育の教材構成は所与のものというよりは、むしろ教授ー学習の相互作用におけるスポーツ活動システムの対象化である。活動の対象化においては、学習の場の構成と共有、教授ー学習の「問い」の導出、「問題状況」の対象化、問題解決の仮説構成、解決行為の実施、行為結果の診断・評価といった位相とサイクルが認められる。位相とサイクルに即して、教師と子ども(集団)の共同による学習課題・対象の共創プロセスをつぶさに明らかにする必要がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
体育実践の学習のリアリティに迫るために、生態学的な複雑性 という方法論的視座が必要であることは概ね理論的に確認できている。ただし、主として生命科学を基礎とした方法論が認知・社会科学的対象にどのように応用されているのかを詳細に検討し、さらには体育における学習活動を解明する方法論的妥当性を問う必要がある。 現段階では、体育における教材構成(再構成)の複雑性とダイナミクスに焦点化することが体育に固有の学習活動を解明することにつながると考えている。そして体育における教材構成(再構成)は学習活動の対象化を本質的な契機としていると仮説的に捉えている。 しかし、個々の子どもの学習活動の対象化の論理と、教授ー学習の相互作用や子ども同士の協同関係による対象の共有化の論理を明らかにすることと、両者の関係性を検討することが必要である。こうした複雑な論理を最もシンプルな協同学習モデルとして描き出すことが課題である。その際、協同学習モデルの妥当性を検証するために、現実の教授ー学習活動のどのような場面を切り取りどのような資料とデータを検出するかは、研究方法論を構築する中で検討を重ねる必要がある。
|
今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」に記す通り、本研究課題の今後の推進方策のポイントは、以下のように示すことができる。 (1)体育における教材構成(再構成)の複雑性とダイナミクスに焦点化すること、(2)個々の子どもの学習活動の対象化の論理と、教授ー学習の相互作用や子ども同士の協同関係による対象の共有化の論理を明らかにすること、(3)対象化と対象の共有化の関係性を検討すること、(4)シンプルな協同学習モデルを構成すること、(5)協同学習モデルにとって妥当な現実の教授ー学習活動の場面を抽出し、モデル実践的検証を図ることである。 こうした本研究の理論的な仮説の検討・検証に適した体育実践の探り、実践の実態分析(授業研究・事例研究)を進めて、実践的妥当性を持つ理論構成を図ることが今後の課題となる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者の石田智巳教授は、2018年度在外研究期間と重なり本科研で配分した予算を使用する機会がなかったため、次年度使用を計画している。本年度は、石田教授との連絡や協議がネットで行われたが、次年度は研究打ち合わせ、在外研究期間中の成果の共有等を密に行い、研究役割の分担を再確認しつつ、体育学習の認知過程と指導における教師の内面の動きの把握・解釈・評価方法についての研究を推進してもらう予定である。 また、研究分担者の丸山真司教授は、自身が代表となっている科研を展開していることに加えて、2018年度より副学長の任に着いたため、本研究に関わるエフォートの値が予定していたより低くなり、旅費の経費が予算より少なくなっている。ただし、丸山教授とは実際に研究協議を重ねることができている。
|