研究実績の概要 |
本研究は,バフチン的な対話思想に基づく対話主義授業論の立場から,幼稚園でのアート教育の意義を,遊び活動と比較しつつ,<子どもー世界―大人(保育者など)>の三項関係における子どもと大人の対話的関係を分析することで明らかにしようとした.令和3年度は令和2年度に実施できなかった中心的な観察サイトである幼稚園の観察と保育者からの聞き取り,スウェーデンの保育園,およびアメリカでの小学校での観察と保育者からの聞き取りをおこなう予定だったが,covid-19のためいずれも実行することができなかった. 実際に実行した研究活動として,主に令和1年度に幼稚園で観察した記録の詳細な分析を,当幼稚園での観察をおこなっている他の研究者,アメリカの協力研究者と共にネット上でのミーティングでおこなった.その結果昨年度の分析結果をさらに進め,アート教育の意義について想像遊びの分析が重要であることが明らかになり,そのメカニズムについての示唆も得られた.主たる結果は,(1)アート制作活動にせよ想像遊びにせよ,子どもたちが「想像的世界」を構築することが中心である.(2)そのためには子どもたちがそこから興味を持ったものを選択できるよう保育者がさまざまな世界についての情報を豊かに提供することが重要である.(3)想像遊びの場合には,子どもたちが「想像的世界」の中である「役割」を取り,役割として現実の自分とは異なる行動を想像的な対象に向かっておこなうことが想像的世界を広げていく.(4)想像的な対象に対する行動ではあるが自由気ままなものではなく,それまでの想像的世界の在り方に基づく理に適った知的な行動である. 研究発表成果についてはCultural-Historical Psychology誌に保育者の在り方についての論文を,海外研究者と共著で出版し,また2つの国際学会(いずれもonline開催)で発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまで進めてきた以前のデータについての分析を踏まえ,特に想像遊びとアート活動の「想像的世界」作りの類似性と違いについて、より一般化した結論を得るために,幼稚園での観察,さらに重要なこととして保育者の考えの聞き取りが重要である.また海外のプリスクール,小学校で同様の実践をおこなっているところでの観察,聞き取り,それを共有しての海外の研究者との密接な意見交換も重要である.しかしcovid-19のために,どちらもまったくできなかった.なお海外との研究者との関係については,わずかに国際学会での発表、また国際学会誌向けの論文の海外研究者との協働的な著作はおこなえたが,現場を共有しての意見交換が必要であり,それがおこなえなかったのが研究を進展させる点では響いている.
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今後の研究の推進方策 |
国内外の研究サイト両方で,直接に現地に行っての観察,聞き取り,意見交換が必要であり,その可能性を少しでも探る.本年度後半でもcovid-19の状況が好転しない場合,本年度もある程度はおこなったようにネットに頼った形で、特に聞き取りや意見交換をおこなうが,特に国内幼稚園の場合幼稚園自体がcovid-19のために多忙であり,保育者とのネットでのやり取りもなかなかに難しいのが今年度の実績からいえることである.最悪の場合,これまでのデータのみで研究をまとめる.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究費のうち多くを予定していたのは国内の研究サイトである幼稚園への観察や打ち合わせのための出張のための国内旅費,および海外の共同研究者の研究サイトであるプリスクールや小学校への観察,研究者との打ち合わせのための国外旅費であった.しかしcovid-19のために,どちらもまったくおこなうことができなかった. 本年度は国内,海外出張とも可能な限りおこなう予定であり,それに使用する.
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