研究課題/領域番号 |
18K02689
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研究機関 | 東亜大学 |
研究代表者 |
清永 修全 東亜大学, 芸術学部, 教授 (00609654)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | PISAショック / 教育改革 / 現代ドイツ芸術教育学 / イメージ指向の芸術教育論 / イメージ・コンピテンシー / ヴィジュアル・リテラシー / イメージ学 / 現代陶冶理論 |
研究実績の概要 |
令和元年度は、イメージ・コンピテンシーと現代ドイツ芸術教育論の新潮流に関連する調査の一環として、今世紀はじめの教育改革と半ば並行して芸術教育の再編と再生を図るべく台頭する「イメージ指向(Bild-Orientierung)」の芸術教育論を牽引し、その中核概念であった「イメージ・コンピテンシー(Bildkompetenz)」の概念を刻印してきた二人の代表的な芸術教育学者であるロルフ・ニーホフ(Rolf Niehoff, 1944-)とクニベアト・ベアリング(Kunibert Bering, 1951-)らの著書や論考を中心に当該潮流に関する理論を分析し、平成30年度末の意見交換と授業実践の視察の成果をも反映させた上で、論考にまとめ、『東亜大学紀要』に発表した。また、上記の動向を「ヴィジュアル・リテラシー(Visual Literacy)」という側面から推進する代表的な研究者であるエルンスト・ヴァーグナー(Ernst Wagner, 1952-)およびライナー・ヴェンリッヒ(Rainer Wenrich, 1964-)らとともに国際共同研究として英語による共著を上梓した。さらに、久田敏彦を研究代表者とする共同研究においては、感性的教育の問題も視野に入れた上で、目下目覚ましい発展を遂げつつある「文化的陶冶(Kulturelle Bildung)」の運動に着目し、現行の教育改革の流れの中に位置付けるべく論考を執筆し、「ドイツ教授学研究会」の成果として共著を出版した。加えて、2020年1月には、ベアリング教授の退官記念シンポジウムに招待され、そこでは日本の動向との比較研究をテーマとする講演を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現代ドイツにおける芸術教育・芸術教授学の三大潮流の一つに数えられる「イメージ指向(Bild-Orientierung)」の芸術教育論を包括的に捉えるべく、当該潮流を代表する論者で、かつその中核概念として掲げられることになる「イメージ・コンピテンシー」の概念を実質的に刻印し、運動を牽引する二人の代表的な芸術教育学者であるロルフ・ニーホフとクニベアト・ベアリングの様々な著書や論考を分析してきた。特にその際、彼らの理論のアウトラインとともに、それを、教育理論(とりわけドイツにおける伝統的な陶冶理論)、ドイツにおける現代教育論、芸術論・美学理論やメディア理論の展開、文化論などのアスペクトに照らして分析することで、そのアクチュアリティの所在を明確にし、指摘した。さらに、自らの理解や解釈の偏りや一面性を避けるべく、実際に両者を訪ね、意見交換を行うことでバランスを図り、客観性を確保すべく努力したのみならず、上記の理論コンセプトに基づく授業実践をも視察することで、その実践上の意義を確認することで、より包括的な理解に努めた。また、目下ドイツにおいて目覚ましい発展を遂げつつある「文化的陶冶(Kulturelle Bildung)」の運動に着目し、現行の教育改革をめぐる論争の中に位置付ける作業を通して、感性的教育の問題の射程を見極めることにも努めた。さらに、本研究テーマも含め、現代社会における芸術教育の課題と可能性を美学・芸術学の視点から捉えるべく、現代のドイツの芸術教育関係者の間でことのほか大きな影響力を持つ現代ドイツを代表する哲学者・美学者であるヴォルフガング・ヴェルシュ(Wolfgang Welsch, 1946-)の議論を研究し、2020年3月には、当人をベルリンに尋ね、インタビューを行った。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、本研究にとって極めて重要な意義を担うニーホフとベアリングの2013年の共著『イメージ・コンピテンシー(Bildkompetenz)』のさらに精緻な読解に努めるとともに、彼らのそのほかの研究にも分析対象を広げ、2018年の2巻組の大著『Horizonte der Bild-/Kunstgeschichte mit kunstpaedagogischem Blick』の分析にも取り組みたい。また、昨年度は十分に果たすことのできなかった「イメージ学」の理論に本格的に取り組んで行きたい。その際、彼ら二人にとってとりわけ重要な理論的支柱となったアビ・ヴァールブルク(Aby Warburg, 1866-1929)の「画像アトラス(Bildatlas)」のプロジェクトとその理論、現代イメージ論を牽引するホルスト・ブレーデカンプ(Horst Bredekamp, 1947-)やゴットフリート・ベーム(Gottfried Boehm, 1942-)、ハンス・ベルティング(Hans Belting, 1932-)からクラウス・ザクス=ホムバッハ(Klaus Sachs-Hombach, 1957-)に至る議論の理解に努めたい。これらの研究によって「イメージ指向(Bild-Orientierung)」、とりわけベアリングらの「イメージ・コンピテンシー」のコンセプトには、旧来の芸術教育論の刷新の可能性のみならず、とりわけ、伝統的な鑑賞教育理論の超克する理論的な視座が存在することを確かめたい。また、それらと並行して、本理論の持つ現代陶冶論的な意義についても明らかにしたい。これついては、目下とりわけ有意義な陶冶理論を提示しているように思われるアンドレアス・デルピングハウス(Andreas Doerpinghaus, 1967-)の陶冶論を参照したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の最終段階として改めて文献調査のための書物や包括的場資料を入手する費用がかかることに加え、現地での研究者たちとの意見交換や聞き取り調査、教育実践における実態調査も含めた渡航費用が必要となるため。
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