研究課題/領域番号 |
18K02715
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研究機関 | 創価大学 |
研究代表者 |
坂本 辰朗 創価大学, 教育学部, 教授 (60153912)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 女性大学教員 / 米国高等教育 / ジェンダー / テニュア制 / ファカルティ・ディベロプメント |
研究実績の概要 |
近年、経済のグローバル化は、世界中の大学に新自由主義のイデオロギーと政策をもたらした。そこでは、個人の計測可能な特性・能力が焦点化され、女性あるいはジェンダーというカテゴリーでの思考法を希薄化させた(Burke, 2021)。他方では、大学の研究・教育の双方において、このような「可視化による客観的なエビデンス」という言説そのものを相対化する研究も見ることができる。 大学教員に求められる論文の出版において、その論文が掲載された学術ジャーナルの影響度は、従来、インパクト・ファクター(IF-index)が使用されてきたが、近年、これに替えて、「h指標(h-index)」が提唱されている。「h指標」は、従来のインパクト・ファクターに比べて、研究の「質」と「量」の両方をバランスよく考慮した指標であると言われる。しかしながら、Bradshawらが実証したように(Bradshaw, 2021)、この指標は原理的に、中断やムラがなく研究を進めた結果がより高得点をえることになり、研究キャリアの中断を余儀なくされる多くの女性研究者には不利に働く。 教育面では、学生による授業評価(SETs)という、我が国においてもほぼ定着した制度については、従前より、「ジェンダーにかかわる潜在的バイアス」の問題が一貫して指摘されており、授業の質の評定手段としての妥当性が疑問視されてきた。米国ではこれが、教員の雇用時や昇進時に広く用いられているが、Reinschらによる研究は、近年になって、少数の事例ではあるが、この使用を限定的にする大学があらわれている(たとえば、オレゴン大学では2018年以降は、SETsの中の定量的評価は採用しない。Cf. Reinsch, Goltz, and Hietapelto, 2020)。法の適正手続き(due process of law)に関係した改革という意味で注目に値する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度予定した、D. E.スミスのinstitutional ethnographyを主要な手法として、女性大学教員のキャリア形成支援に関する理論モデル構築を開発するという課題は、以下のような新たな研究を参照する必要が生じたため、未だ完結していない。 institutional ethnographyは元々、feminist standpoint theoryを採用しており、制度の方からのみの分析ではなく、ひとりの女性の生活という視座から制度を見ていく。それによって初めて、変革への新たな戦略が開発できるとする立場をとっている。この理論を採用した近年の研究が、本研究課題に示唆するところは、たとえば以下が挙げられる。 定数的指標から見れば、女性教員の地位が目立って上昇しているとは言えず、人材供給のパイプライン仮説からは、学位取得から就職の段階で、高等教育の中の女性は、一段と減少している(Ph.D.取得女性の数は一貫して増加しているにもかかわらず、大学での地位獲得数が比例していない)わけであり、むしろ、困難な状況に置かれている。これを打開するためには、高等教育の中での女性の成功を数量的指標で測定することの限界を証明し、これに替わる定性的指標(refraiming success markers、従来に替わる成功の指標)の開発を必要とする(Myers, 2009)。このことは、テニュア付ポジションの数が大幅に減ってしまっている現状では特にそうであろう(Harford, 2018)。 この理論を採用した近年の研究は期せずして、上記の「研究実績の概要」で述べた高等教育改革の一端を裏付けることにもなっている。
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今後の研究の推進方策 |
研究最終年度にあたり、研究計画立案時に予定した、フェイズⅢの以下の二つの課題、すなわち、 (1)女性大学教員への総合的なキャリア形成支援政策において、各学術学会・団体は、具体的にどのようなプログラムを用意しているのか、 (2)テニュア獲得へ向けて、女性大学教員のリクルートと定着の促進への障壁を除去するための「全米的ベスト・プラクティス」の解明と普及における、学術学会独自の機能とは何であるのか、 の総括を中心に、テニュア制度の崩壊に象徴される大学教授職構造変動下のアメリカ高等教育界において、①「研究」「教育」「大学運営」という大学教員の三つの役割を不可欠かつ不可分なものとした上で、②大学教員の全ライフステージとワーク・ライフ・バランスをも視野に入れた、女性大学教員への総合的なキャリア形成支援システムがどのように構築されつつあるか、という本研究課題を完結させていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究はもともと、2010年度完結であったが、COVID-19の世界的蔓延のために、研究の柱の一つである海外での資料収集と調査がかなわなくなった等の理由で、研究計画の変更を余儀なくされた。結果として、研究延長願を提出し受理され、2021年度完結の予定であったが、さらに一年の延長となったものである。
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