研究課題/領域番号 |
18K02770
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研究機関 | 九州産業大学 |
研究代表者 |
阿部 敬信 九州産業大学, 人間科学部, 教授 (90580613)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 日本手話 / 日本語 / バイリンガル / 言語運用力 / 評価 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、日本手話・日本語バイリンガル児童生徒の言語運用力を評価するとともに、聴覚障害のある児童生徒の言語運用力を向上させるための効果的な教育方法とは何かを明らかにすることにある。そのためには、日本手話と日本語という二つの言語を合わせたトータルな言語運用力という視点が欠かせない。この視点から言語運用力を客観的には評価する枠組みを明らかにし、そのことにより、日本手話・日本語バイリンガル教育を実践している学校では、実際にそれがどのように培われているのかが見えてくると考えている。研究初年次に行った日本手話を母語とするろう者教師5名のインタビュー調査から何度か強調された「日本手話と日本語を駆使して、ろう者の立場から自分たちの考えを、論理的に聴者に説明できる力」というキーセンテンスから、研究二年次にあたる本年度は、日本手話・日本語バイリンガル教育を実践している学校の中学部生徒12名を対象にして、「地球温暖化について」という4枚の図版から論理的な手話文を表出させ、ビデオデータに収録することを行った。また、同じテーマで同じ対象生徒で日本語作文データも収集した。これらを比較分析することにより、「論理的に説明できる力」の実態を把握し、言語運用力の評価の枠組を具体化したいと考えている。また、小学部5・6年においては、ATLAN適応型言語能力検査の音韻意識検査を実施し、さらに中学部生徒で行った「地球温暖化について」の日本手話の手話文と日本語作文の収集を計画したが、臨時休校措置が行われたため、小学部6年の日本手話手話文の収集のみで終えているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年次に行った日本手話を母語とする教師5名に対するインタビュー調査の結果から、言語運用力評価の一つの評価の視点が提示され、その視点に基づいた中学部生徒12名の対する調査をすることができ、日本手話の手話文と日本語作文を収集できた。 また、同じく初年次に行った聴覚障害特別支援学校の関係する教師らに行った質問紙調査10名分の結果を分析して、日本特殊教育学会第57回大会(広島大会)の自主シンポジウム「聴覚障害教育における言語運用力育成(その5)」において指定討論者として、一部を発表することができた。これにより、聴覚障害児の言語運用力を「相互行為能力」として「行為」は「個人に属するものではなく、すべての参与者によって協働的に構築されるもの」という評価の大きな枠組みを示すことができた。 ただし、3月に予定していた小学部5年・6年に対する調査は臨時休校措置のため一部を中断したままである。これらの進捗状況を総合的に評価して「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
日本手話・日本語バイリンガル教育を実践している学校の中学部生徒12名を対象とした「地球温暖化について」調査で収集した日本手話の手話文ビデオデータのトランスクリプトを作成し、日本語への翻訳を行う。日本手話母語話者とともにトランスクリプトの妥当性の検証と、手話通訳士の資格をもつ第三者ともに日本語翻訳文の妥当性の検証を行う。その上で、同調査で収集した日本語作文データと比較検討を行う。さらに、通常の中学校生徒を対象として同様の方法で日本語音声データと日本語作文データを収集できないかを検討する。これにより、初年次の日本手話を母語とするろう者教師のインタビュー調査の結果及び聴覚障害特別支援学校関係者10名に行った質問紙調査の結果から、言語運用力評価の枠組みを明らかにしたい。 しかしながら、現時点においては、研究対象となっている学校の臨時休校措置が続いており、今後の調査については、見通しが立たない状況となっていることを申し添えておく。
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次年度使用額が生じた理由 |
「人件費・謝礼」において、日本手話から日本語への翻訳の校閲者に対しての謝礼については、次年度に行う予定である。また、「物品費」においては、動画保存及び動画編集についてHDDユニット及び動画編集ソフトウエアの購入を検討していたが、動画編集ソフトウエアについては大学のライセンス認証で使える動画編集ソフトウエアがあり購入の必要がなくなった。HDDユニットについては既有のデスクトップパソコンのHDDをSSDに換装することで対応することにした。換装は次年度当初に行う。
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