本研究の目的は、日本手話・日本語バイリンガル児童生徒の言語運用力の評価方法を考案するとともに、聴覚障害のある児童生徒の言語運用力を向上させるための効果的な教育方法について考察することにあった。特に、日本手話を母語とする児童生徒は、母語としての日本手話とマジョリティ社会である聴者社会にアクセスするための日本語という2つの言語を合わせたトータルな言語運用力という視点から評価する必要があると考えた。新型コロナウイルス感染症拡大に伴う行動制限によって、研究対象校での調査研究が計画どおりに進まず、研究期間を2年間延長することとなった。最終年度となる本年度は、研究5年次(延期2年目)となる。本研究期間を通じて、言語運用力の基盤となる認知発達の実態把握のためにDN-CAS認知評価システムの日本手話提示版を考案し、研究対象校の毎年度の中学部第1学年の認知的発達の評価を行った。その結果、対象生徒全員の全検査標準得点は97.0(SD15.0)であり、概ね学年相当に発達している実態にあると判断した。また、研究対象校のろう者教員への半構造化インタビューで得られた日本語トランスクリプトに対してback translationを行い、日本語トランスクリプトの妥当性を検証した。back translationを実施できた4名の日本語トランスクリプトの質的分析として、SCAT; Steps for Coding and Theorizationによる分析を行った。その結果、高い言語運用力をもつ姿として、聴者と対等な位置で、話し合ったり、交渉したりしていること、相手に合わせたコミュニケーションの方法を選択し使っていることが抽出された。言語運用力を評価する視点としては、・自分の母語(日本手話)をもつこと、・ろうであるというアイデンティティがあることなどが挙げられた。
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