研究課題/領域番号 |
18K02785
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
伊藤 友彦 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (40159893)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 幼児 / 発話 / 流暢性 / 発達 / 吃音 / 自然回復 |
研究実績の概要 |
吃音は、音や音節の繰り返し、引き伸ばし、ブロック(音が出てこない現象)を特徴とする言語障害である。本研究は吃音の原因を解明するための基礎的研究の一つである。吃音は、ほとんどが幼児期に発生し、多くが学齢期までに消失する。この現象は吃音の自然回復と呼ばれる。一方、幼児期には、繰り返しや言い直しなどの非流暢な発話が目立つ時期がある。両者の関係を明らかにすることが吃音の発生メカニズム解明の鍵を握っていると思われる。 本研究の目的は、吃音の自然回復を示した幼児1名の吃音の発生・消失過程と言語発達との関係を明らかにし、その結果を、吃音が生じなかった幼児の発話の非流暢性と言語発達との関係と比較することによって、発話における流暢性の発達と吃音の自然回復との関係を明らかにすることである。 研究の1年目は、吃音の自然回復を示した幼児1名の1歳6カ月から3歳2カ月までの自然発話データを文構造と吃音の特徴とともに1発話ごとにICレコーダからエクセルに文字入力した。その結果、このような方法によるデータ入力は当初の計画よりも多くの時間と労力を要することが明らかになった。そこで2年目は、吃音が生じなかった幼児の縦断研究の対象児を2名に減らし、この2名の自然発話をエクセルへ入力する作業を行った。また、1年目にデータ入力が終わっている、吃音の自然回復を示した1名のデータを分析し、その結果を、日本特殊教育学会第57回大会(広島大学)において発表した。この分析によって、吃音の発生は、構造を持った文の産出と密接に関係しており、構造を持たないとされる文では生じにくいことが明らかになった。この結果は、吃音が、ことばを話し始める時期、すなわち1語文の時期に発生しないのはなぜかという問題を解明する上で重要な意義を持つと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究の対象である、吃音の自然回復を示した幼児1名のデータは、吃音が発生する前からのデータが含まれているという点で世界的に稀なデータである。この幼児の自然発話の縦断研究データを、吃音が生じなかった幼児の縦断研究データと、言語発達に視点をあてて比較することが本研究の特徴である。 1年目は、吃音の自然回復を示した幼児のデータをエクセルへ文字化して入力した。その際、文構造と吃音をそれぞれ複数のカテゴリーに分類しながら1文ずつ入力したため、予測したよりも多くの労力と時間が必要であった。一方、これも予測しなかったことであるが、吃音を示さなかった幼児の数を増やすために行っていた縦断研究の過程で、対象児1名が吃音の自然回復を示した。そのため、この1名も吃音の自然回復を示した幼児として追加できる可能性が出てきた。 2年目は、1年目に、データ入力に多くの時間を要することがわかったため、吃音を示さなかった幼児の数を2名に減らし、この2名と、新たに得た、吃音の自然回復を示した1名のデータ入力と分析を行う予定であった。しかし、データ入力に時間がかかり、吃音を示さなかった幼児2名についてはエクセルへのデータ入力がほぼ終了したけれども、1年目に新たに得た、吃音の自然回復を示した幼児のデータの入力はできなかった。 このように、これまでの2年間の研究期間においては、幼児の縦断研究データをICレコーダから文字化してエクセルに入力することに多くの時間を費やさざるを得なかった。そのため、2年が経過した現在、吃音の自然回復を示した幼児1名のデータ入力は終了したが、吃音が生じなっかった幼児2名のデータ入力が完全には終わっておらず、両者を比較する段階には至っていない。このような点を踏まえ、進捗状況は、遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、吃音の自然回復を示した幼児1名の、吃音の発生から消失までの過程と、吃音が生じなかった幼児における発話の非流暢性の発達的変化を、それぞれ言語発達との関係で検討し、両者を比較することによって、発話における流暢性の発達と吃音の自然回復との関係を解明することであった。1年目に、吃音の自然回復を示した1名の自然発話データをエクセルへ入力し、2年目には、この1名と比較するための、吃音が生じなかった2名の縦断研究データのエクセルへの入力をほぼ終えた。また、吃音の自然回復を示した1名のデータを分析し、吃音の発生が、構造を持つ文の産出と関係していることを明らかにした。 最終年度である今年度は、吃音の自然回復を示した幼児1名における吃音と言語発達との関係と、吃音が生じなかった幼児2名の発話の非流暢性と言語発達との関係を比較する。具体的には以下のように研究を進める。まず、既にエクセルへの入力が終了している、吃音の自然回復が生じた1名について、いかなる文構造が吃音の発生と関係しているのかを検討する。つぎに、吃音が生じなかった2名のエクセルへの入力を完全に終了し、非流暢性の発達的変化と文構造との関係を分析する。最後に、吃音の自然回復を示した幼児1名にみられた吃音の発生・消失と文構造との関係と、吃音が生じなかった2名の発話の非流暢性と文構造との関係を比較する。この比較によって、発話における流暢性の発達と吃音の自然回復との関係を明らかにする。さらに、これまで明確な仮説が提案されてこなかった、吃音の自然回復モデルを提案する。それぞれの結果がまとまり次第、学会発表または投稿論文として、国内外に発信する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では、吃音の自然回復を示した幼児と、吃音が生じなかった幼児の自然発話の縦断研究データを、1発話ずつ、文構造の特徴と吃音、発話の非流暢性の特徴とともにICレコーダからエクセルへ文字入力する必要があった。この仕事は、予期したよりも多くの時間と労力を要した。そのため、2年目は、対象とする、吃音が生じなかった幼児の数を2名に減らした。しかし、この2名のエクセルへのデータ入力は完全には終わらなかった。その結果、2年目には、1年目にデータ入力が終了している1名のデータ分析しかできず、吃音の自然回復を示した幼児と、吃音が生じなかった幼児との比較ができなかった。そのため、2年目の研究成果の発表は国内の学会一つのみとなった。国際学会での発表はできなかった。その結果、国内外の学会発表のための旅費等の使用が当初の予定よりも少なくなり、次年度使用額が生じた。3年目には、吃音を示さなかった幼児2名のデータ入力が終了し、吃音の自然回復が生じた幼児との比較ができる。今回生じた次年度使用額は、翌年度分として請求した助成金と合わせて、国内外の学会発表旅費等、研究成果の発表のために使用する。
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