研究課題/領域番号 |
18K02830
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研究機関 | 実践女子大学 |
研究代表者 |
駒谷 真美 実践女子大学, 人間社会学部, 教授 (20413122)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | メディア情報リテラシー / 生涯発達 / エリクソンの心理社会的発達理論 / OECDの社会情動的スキル / 乳幼児期から老年期まで / ワークショップ実践 / ルーブリック評価 |
研究実績の概要 |
本研究は、3年間の継続研究として、乳児期から老年期まで生涯発達の観点からメディア情報リテラシー(MIL)理論を世界で初めて体系的に構築し、各発達段階でのワークショップ実践により、MIL理論の効果を検証することを目的としている。 本研究の契機として、「情報弱者」が増加している社会的背景がある。メディアが発信する情報は、膨大かつ玉石混淆である。昨今では、メディアが関わる事犯は増加傾向にあり、老若男女問わず巻き込まれている。「スマホ子守」で育てられた乳幼児は、早期にメディア接触することで、メディアの情報を無意識に鵜呑みにしていく危険性がある。児童や学生は、仲間外れになるのを恐れ、LINEいじめやSNS依存から抜け出せない傾向がある。老年者に至っては、老後の生活や健康の不安をあおる虚偽情報に接しても見抜けず、詐欺被害が後を絶たない。このように、乳児期に始まり老年期に至るまで、誰もが「情報弱者」になりえる。この現状を鑑み、「高度情報社会を生き抜く市民となるために生涯を通してメディアを批判的かつ主体的に読み解く能力(MIL)」の獲得が肝要である。しかしながら、MILは生得的能力ではないため、「万人の」「生涯の」MIL教育のための理論が必要になってくる。そこで、本研究において発達の連続性を重視したMIL生涯発達理論を構築・実践・評価することは、大いに意義があると考える。 初年度である2018年度は、MIL生涯発達理論の構築を開始した。UNESCOが提唱したMILを元に、本研究者が既に構築していた「メディア情報リテラシー育成のフレームワーク」を踏まえ、生涯発達心理学の視点からエリクソンの心理社会的発達理論と倫理学の視点からコールバーグの道徳性発達理論を取り入れた。各発達段階の情報意識行動の特徴を捉え、MIL生涯発達理論(暫定)を試案し、論文化した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は、「おおむね順調に進展している」と判断する。その主な理由として、MIL生涯発達理論(暫定)の方向性が明確になったからである。 UNESCOが提唱したMILを元に、本研究者が既に構築していた「メディア情報リテラシー育成のフレームワーク」を踏まえ、生涯発達心理学の視点からエリクソンの心理社会的発達理論と倫理学の視点からコールバーグの道徳性発達理論を取り入れた。各発達段階の情報意識行動の特徴を捉え、MIL生涯発達理論(暫定)を試案し、論文化(Constructing a Developmental Theory of Lifelong Media and Information Literacy Based on Practical Research: Part I Theoretical Construction)した。Media Education Conference(24-26 April 2019, Finland)に応募したところ、oral presentation に採択されたが、実際の参加は諸事情(国際会議時期とGW連休が重なり、採用決定後に航空券の手配が困難を極めたため)により、やむなく断念した。同時期に、Journal of Media Literacy Education Special Issue “Media Education for All Ages”にも投稿し、先駆的な意義ある研究と認められた。採択は見送られたものの、複数の査読者から研究の継続を強く要望された。理論の構築過程において、MILとエリクソンの心理社会的発達理論とコールバーグの道徳性発達理論との関連性の言及が強靭ではなかったことが指摘された。このフィードバックを活かし、各発達段階において理論の関係性を更に深化させることで、MIL生涯発達理論(暫定)の構築につながると考える。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度前半にMIL生涯発達理論(暫定)を構築する。2018年度で作成した試案を深化する。まず各発達段階に沿ったMILとエリクソンの心理社会的発達理論を照合し精緻化を徹底する。続いて新たにOECDの社会情動的スキル(非認知能力)の発達を参照する。19の社会情動的スキルが特性5因子モデルと関連しており、教育文脈からMIL生涯発達理論(暫定)を強化する。現在、UNESCOが主催するGlobal Media and Information Literacy Week 2019 Feature Conference(24-26 September 2019, Sweden)に、この新試案で応募しており、oral presentationに採択されれば、理論(暫定)を発表する。当初は、2019年度からワークショップ(WS)を準備し順次実践を開始する予定であったが、本研究の要である理論構築を堅固にするため、上記の予定を最優先する。 2019年度後半に、WS準備に入る。各発達段階の調査協力先(こども園・児童館・小中高大・渋谷区と足立区の自治会)に理論(暫定)のWS実践について趣旨説明を行い、実践日程を調整する。 2020年前半に、各発達段階でWS実践を行う。WSの形態は「10人前後の少人数グループ/ 1チャレンジ(60~90分)×2回(同日か別日)=2チャレンジ / チャレンジ1(情報の受け手と使い手)+チャレンジ2 (情報の作り手と送り手) / 各発達段階に応じたメディア素材を教材として活用/参加者との対話から主体的な気づきを促進」するものである。各実践はプレポストデザインで、WSのビデオ録画と半構造化インタビューも行い、プロトコル分析やテクスト分析から質的変化を解明する。 2020年度後半に、MIL生涯発達理論の実践評価を行いMIL生涯発達理論(改訂)を最終構築する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年9月スウェーデンでの国際会議の発表を計画しているため、次年度使用が生じている。本研究の要である理論構築を堅固にするため、UNESCO主催のGlobal Media and Information Literacy Week 2019 Feature Conferenceの発表部門に応募している。現地では、世界中の主要な研究者が集うため、貴重なフィードバックが得られ、MIL生涯発達理論(暫定)の構築に大いに有益と考えた。この会議での発表が認められることは、世界的認知を意味する。oral presentationが採択されれば、旅費や学会費等が発生するため、次年度使用が生じている。(採択結果は5月末に告知されるので、本報告書作成段階の5月初旬では予定として挙げている)
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