本研究の目的は、乳児期から老年期まで生涯発達の観点から「メディア情報リテラシー(MIL)生涯発達理論」を世界で初めて体系的に構築し、各発達段階でのワークショップ(WS)実践により、MIL理論の効果を検証することである。 当初の計画に則って、2018年度は、UNESCOのMILを元に本研究代表者の「MIL育成のフレームワーク」を踏まえ、エリクソンの心理社会的発達理論を参照し、MIL生涯発達理論を試案した。2019年度は、新たにOECDが世界的に提唱している社会情動的スキルを取り入れ、教育文脈からMIL生涯発達理論を強化し、UNESCOがSwedenで主催したMIL国際会議において発表した。国際会議の参加者から多くの有意義なフィードバックを得られることができ、実践に向けて方向性が定まった。 ところが2020・2021年度は、国内外でCovid-19の感染が深刻化し、WS準備を進めていたが実行が叶わなかった。2022年度は、コロナ禍の状況に応じて、児童期・思春期・青年期・成人期・老人期の計8回、Zoom・Zoomと現場のハイブリッド・対面と様々な様式でWSを実践できた。WS実践の結果から、児童期のMIL発達課題「主体的かつ批判的視点に基づく情報獲得」・思春期のMIL発達課題「アイデンティティの葛藤に基づく協調的情報探索」・青年期のMIL発達課題「コミットメントの深化に基づく情報共有」・成人期のMIL発達課題「自己・他者・社会のニーズに基づく情報獲得と共有」・老人期のMIL発達課題「MILの蓄積に基づく情報格差払拭」の妥当性がそれぞれ示唆された。2023年度はコロナ禍が収束に向かい、児童期と成人期の親子WSを全面対面で追加実践することができた。両者の相互作用によりMIL発達課題が助長されるという新しい可能性も見出された。
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