前年度に引き続き、「母集団モデルにおける補助変数の利用方法」に関する研究を行い、項目反応モデルで学力を推定する際、学校情報を補助変数として母集団モデルに組み込んだ場合と多集団モデルを用いた場合とをシミュレーションデータを使って比較し、学校間で標準偏差が大きく異なるときは多集団モデルが有効であり、異ならないときは母集団モデルが有効であることがわかった。そして、PISA2012年調査の解答データを用いて、日本の高校では平均得点の標準偏差が学校間であまり変わらないこと、ゆえに母集団モデルを採用することが日本の学力調査では有効であることを明らかにした。 また同時に、「母集団モデルと多次元項目反応モデルに基づく推定モデルの構築」と題した研究を進め、シミュレーションデータや実際の調査データに対して、母集団モデルによる質問項目等の条件付けや、多次元項目反応モデルで複数の領域(科目)を同時に推定することによって、能力値の標準誤差が小さくできること、つまり推定精度の向上が見込めることも明らかにした。 研究期間全体を通して、学力調査で項目反応理論を使う場合の尺度の等化方法、多次元項目反応モデルの利用とその前提としての次元数の評価、学校情報の条件付けに代表される母集団モデルの利用方法を研究してきたが、それらの成果を学会発表や雑誌論文、書籍等で公表するだけでなく、「情報活用能力調査」や「全国学力・学習状況調査」の過去データに本研究で明らかになった有効な推定モデルを用いて再分析し、その結果を文部科学省や国立教育政策研究所の事業にフィードバックすることで、学術研究を越えたより広い貢献を行うことができた。
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