前年度に引き続き,PCモニタに提示された文章中に読み難い文字が存在するときにリーディング作業に集中し難い状態になることを前提に,視線を用いて難読文字の有無を検出する手法を検討した。今年度は,黙読中の視線ヒートマップの値(モニタ画面の画素に対する視線停留時間)に閾値処理を施して難読文字上の視線を検出するための閾値を検討した。具体的には,モニタ画面(解像度1920×1080画素)上に日本語漢字能力試験の問題文(1文字の大きさは10.5ポイント(14×14画素))を提示し,20名の被験者がそれぞれ黙読したときの視線データを取得した。各被験者が難読であったと回答した文字を難読文字と定義し,閾値処理による検出結果と照合した。閾値を,50msから10sの範囲において50ms刻みで設定したときの検出率(照合結果)を調査した結果,検出率が最大となる閾値は被験者毎に異なり,黙読速度との相関が認められた。上記の実験条件下では,黙読速度が最も遅い被験者の閾値は1400ms(検出率77%)であり,最も速い被験者の閾値は2450ms(検出率約73%)であった。さらに,黙読速度に応じた閾値を用いたときの検出率は,一定の閾値を用いたときの検出率を上回る場合が多いことを確認した。 一方,PC上で実行された作業種別を,視線とPC操作ログを用いて推定する手法について検討した。Webページの閲覧,Webページを閲覧しながらの文章入力,文章入力のみ,の各作業を行っているときの視線データ,キーボードログ,ウィンドウログを取得し,アクティブウィンドウに対するキー入力と視線の有無を調査した。その結果,ブラインドタッチの有無に関わらず,文章入力時には約6割以上の視線が文章入力用のアクティブウィンドウ内に存在することが確認され,視線の存在割合に基づく作業種別推定の可能性が示された。
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