研究課題/領域番号 |
18K02900
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
李 相穆 九州大学, 言語文化研究院, 准教授 (60400298)
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研究分担者 |
PARDESHI P.V. 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所, 理論・対照研究領域, 教授 (00374984)
岡田 美鈴 宇部工業高等専門学校, 一般科, 准教授 (90776543)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | マルチメディア / イメージ・スキーマ / 人工知能 |
研究実績の概要 |
本研究の目的はマルチメディアを用いた外国語学習過程を心理学および認知言語学的立場から分析・解明し、それをモデル化することで、マルチメディアが学習者のイメージ・スキーマ形成に及ぼす影響とメカニズムを解明することである。現在マルチメディア教材開発は技術に対する安易な期待感から理論的根拠や徹底した検証なしに開発が進み、新しい技術が教材開発の需要を作り出している構図となっている。その結果、学校現場や外国語教育分野での活発な開発研究は進んでいるものの、それが成功している例は極めて稀であり、その理由は外国語学習者の学習過程にはまだ不明な部分が多いためであると考えられる。そこで、外国語の語彙学習においてイメージ・スキーマはマルチメディアによってどのように形成されるのか、そしてその結果を実際の教育現場で活用する方法について考察する予定である。 今年度は外国語学習におけるマルチメディアの学習過程を解明するため、マルチメディアを外国語教育現場で活用している事例を収集した。また「AIを活用した外国語教育の効果と期待に関する一考察」という研究を随行し、AIを活用した外国語教育の事例をしらべ、外国教育における効果を分析した。また教師と学生を対象に実施したアンケートからAIに対する使用者からの要望、およびAIの技術的な限界と改善点について考察を行った。以上の二つの研究は外国語学習者がマルチメディア外国語学習教材からいかに学習を進めていくのかのモデル作りに基礎データになると期待している。 今後はマルチメディアを用いた外国語習得過程をモデル化する。何を認知し、何を符号化するのか、外国語学習者はどのようにマルチメディアで示された情報を自分の記憶システムに保存していくのか、という問いに対して様々な認知実験をもとに検証していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 学習者の語義習得についての認知言語学的研究-動きを表す言葉である動詞の意味を学習者が理解し、自分の記憶システムに保存していく仕組みを解明する。実際の発話場面でその情報をどのように活用していくのか、そしてどのようなエラー(誤用)をするのかについて言語学や認知言語学的知見を取り入れ研究した。 2. 動詞と関連する視覚情報についての心理実験-動きや状態の変化等を表す視覚情報を提示した場合、視覚情報の種類(静止画、連続イラスト動画、動画)によって学習者が動きを認知し言語化していくプロセスが異なるのかどうかを解明する。そのためには学習者の視線が視覚情報のどの部分に注視するのかを視線追跡装置を用いて測定する。これによりイメージ制作時に強調すべき箇所や提示時間等について調べることができると考えている。 3. 動詞の意味を表す際の視覚情報の効果を調べる-効果的な学習のための視覚教材についての研究では視覚情報の具体性についての一貫した結果がまだ得られていない。教授項目、表現したい事柄により適切な視覚情報が異なると考えられる。例えば、静止画、連続イラストだけではダイクシス(例えば「あがっていく/くる」のような話者の位置に依存する表現)を表すのは難しい。そのような場合に動画が効果的であると考えられる。動画により、話者の位置と選択されている表現の関係が確認でき、学習者の記憶に深く刻まれると思われる。そこで、動詞の種類によってそれを代表する視覚情報はどのようなものであるのかについて、学習者を対象とした学習実験やアンケートで解明していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
1. 動詞の種類によってそれを代表する視覚情報はどのようなものであるのかについて、学習者を対象とした学習実験やアンケートで解明していく予定である。 2. 研究代表者が開発したマルチメディアコロケーション検索システム(2004)では、映像情報に同期した言語情報、パラ言語情報、メタ言語情報を記述したMPEG-7データを利用し映像からコロケーション情報が検索できる。外国語学習者には実際の言語使用提示がより効果的だという研究結果が得られている。 動詞の学習過程で明らかになったイメージの種類、利用法を現在の日本語教材、日本語辞書に取り入れるために映像データベースを構造化し実用化を図る予定である。外国語教師が動詞の意味を学習者に提示したり、学習者が動詞の振る舞いを正確に把握したりするためにこのシステムを利用することが想定できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度に学習者の語義習得についての認知言語学的研究として「動詞と関連する視覚情報についての心理実験」を行う予定だったが、実験者を確保できなかったため次年度(平成31年度)を予定している。
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