研究課題/領域番号 |
18K02907
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研究機関 | 玉川大学 |
研究代表者 |
塩澤 秀和 玉川大学, 工学部, 教授 (80328533)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 拡張現実感(AR) / 教育支援システム / 力学実験 / 回路実験 / フィジカルコンピューティング |
研究実績の概要 |
本研究課題では,力学や回路などの物理の学生実験で用いる装置に小型のセンサーを取り付け,AR(Augmented Reality;拡張現実感)技術を用いることで,力のベクトルや電圧などの現実の物理量を,カメラ映像にリアルタイムに重ね合わせて可視化することで,学習者のより直感的な理解を促すシステムを開発・評価することを目的としている。 現在までに,電気・電子回路および力学の実験ためのシステムの試作し,改良を進めている。前者では,回路素子にARマーカーを付与することで回路の状態を認識し,学習者に,素子の説明,回路の接続状況,実験の手順などを,回路の映像に重ね合わせてAR表示する。後者では,加速度センサー等を搭載したセンサーボックスにARマーカーを付与し,センサーの出力値から計算した力などの物理量を,同様にベクトルを表す矢印等でAR表示する。 平成30年度の実績としては,力学実験に関して,センサーボックスの小型化および回路の簡単化,複数のセンサーボックスの製作,複数のセンサーボックスを利用した具体的な教材の開発に取り組んだ。その結果,名刺入れサイズのセンサーボックスを複数個制作し,複数の物体にセンサーボックスを貼り付け,それらにかかる力を矢印で表示して視覚的に比較するような実験テーマを開発することができた。また,回路実験と力学実験のシステム統合に関しては,マルチプラットフォームARシステムの開発に利用できる技術の調査・学習を行い,開発を進めている段階である。 本研究課題に関連して,平成30年度は本プロジェクトのコンセプトと試作システムについて学会で口頭発表を行なった。また,AR/VRおよびそれに関連した周辺分野について,最新の研究動向等を調査するため,VRおよびユーザインタフェースに関する学会等に参加した。平成30年度の研究成果に関しては,令和元年度学会等で発表していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では,現在のプログラムをゲームエンジンのようなマルチプラットフォームに対応した開発環境とプログラミング言語で新しく書き直し,回路実験と力学実験のシステムを統一することと,マーカー型ARにおけるマーカーの認識精度を改善するため,撮影時のブレに強い技術を利用することを優先的に行うこととしていた。しかし,これらに関して調査・学習に時間がかかったことと,プロジェクトの途中成果を発表していく必要性を考え,若干方針を変更し,まずは力学実験を対象として,センサーボックスの小型化および回路の簡単化,複数のセンサーボックスの製作,複数のセンサーボックスを利用した具体的な教材の開発に取り組んだ。このような変更を行ったため,全般的には順調に推移していると考えるが,当初の計画とは研究内容の順序が若干異なる経過となっている。
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今後の研究の推進方策 |
1年目にやり残して現在継続中の研究内容として,本システムをゲームエンジンのようなマルチプラットフォームの開発環境とプログラミング言語で書き直し,回路実験と力学実験のシステムを統一することがある。これによって,プログラムが安定性を増すだけでなく,両者で共通の機能を実現しやすくなることが期待される。 また,撮影時のブレなどによるARマーカーの誤認識への対策やマーカーを使わないAR技術との連携によって,学習システムとしてのユーザビリティの向上に取り組む。具体的には,状態遷移などを用いたプログラムの改良,ブレに強い形式のマーカーの利用,最近急速に普及しているマーカーを使わないAR技術の利用を行う。 さらに,当初から2年目の研究内容として計画していたものに,ヘッドマウント型のARディスプレイへの対応がある。すでに機材購入して開発環境を構築しているのでこれも推進していく。ヘッドマウント型ARディスプレイの3D表示への対応によって,力学における各種の3次元ベクトルがより実空間に存在するかのように直感的に可視化できるものと期待される。 本システムを利用した具体的な教材の開発にも,引き続き取り組んでいく必要がある。そのために,小・中学生向けも含めた市販の物理学関係の実験キット等についても調査を進め,本研究のようなARによる情報表示が有効な実験テーマを考察し,具体的な教材の例として提案していきたい。 以上を踏まえた上で,学習支援システムとしてのユーザの利用による評価を行い,学会や論文誌での研究成果発表につなげていく計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
主たる理由は,3月17日から22日までの学会出張関連費(32万円弱)の処理が次年度に繰り越されたためである。また,実験等における学生の協力への謝金の支払いがなかったのも理由である。令和元年度は、謝金の支出や電子部品等の消耗品の購入に使用する。
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