研究課題/領域番号 |
18K02921
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研究機関 | 比治山大学 |
研究代表者 |
山田 耕太郎 比治山大学, 現代文化学部, 准教授 (20353120)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | プログラミング教育 / 論理的思考 / ブロック型言語 / 試行錯誤 |
研究実績の概要 |
本研究では,プログラミングの学習者がどのような作業や試行錯誤を経てプログラムを構築しているのかを明らかにするため,プログラムの構築過程を時系列データとして収集し,そのデータ分析を通じて学習者の作業パターンや思考パターンを調べる必要がある。今年度はこのデータ収集を行うサーバの構築を行い,ブロック型言語Blocklyが生成するイベントメッセージを取得できるようにした。イベントメッセージはブロックの選択や移動,変更,消去などの際に生成・発信されるため,これらのメッセージをサーバ側で逐一受信・記録することによって,学習者のプログラミング学習行動を把握するための詳細な履歴を得ることができる。この履歴から最も明らかにしたいことは学習者がどのような試行錯誤を経てプログラミングを行っているのか,ということである。研究計画の段階では試行錯誤が「場当たり的か系統的か」という観点からデータ分析を行い,プログラム構築過程のパターンと論理的思考との関係を調査することにしていたが,研究を推進する過程で「条件分岐処理」を伴う場合の試行錯誤が特に場当たり的な傾向にあることがブロック型言語を使った授業実践の前段階で判明したため,急遽アンプラグド的な手法でその実態調査を行った。その結果,条件分岐処理の際に全ての条件を調べ尽くしていないにもかかわらず,直観や勘に頼ってたまたま正解に辿り着いている学習者が多いという実態が浮き彫りになり,今後のプログラミング教育を実施する上で特に留意すべき観点のひとつを明確化することができた。これらの成果については,教育システム情報学会および比治山大学現代文化学部紀要にて既に公表を行っている。 また本研究の対象は大学生であるが,当初の計画になかった小学校での授業の機会を得たため,小学生の意識調査や教員からの聞き取り調査を行い,今後の研究を小学生も対象に含めて展開する体制を整えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究計画ではブロック型言語のBlocklyを使ったプログラミング教育を行って学習者のプログラム構築過程を時系列データとして取得し,その分析から学習者の試行錯誤や論理的思考の特徴を明らかにすることとしていた。しかしブロック型言語を導入する前段階で学習者の「条件分岐処理」が場当たり的な傾向が強いことが判明したため,ブロック型言語を使った授業実践を一時保留にしてアンプラグド的な手法で条件分岐の全ての場合を学習者が列挙できるかどうか,という問題に焦点を絞った実態調査を行った。そのため学習者のプログラム構築過程をデータとして収集するという当初の計画に遅れが生じる結果になった。しかしデータを収集するサーバの構築と実際にデータを取得できるかどうかの検証は既に終えており,授業実践を保留にして行った実態調査からは研究を遂行する上での有益な結果が得られるなどしているため,単に計画が滞ったための遅れではなく,研究をより深めるために生じた課題に取り組んだ結果による遅れである。この遅れは今後の研究計画の範囲内で回復できるものであり,課題の本質には何ら影響はないため,今後も当初の計画と目的に沿って研究を進める。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画では,ブロック型言語による授業実践を行った後テキスト型言語を使った授業実践へと移行し,その教育効果を分析する予定としていたが,現在までの進捗状況欄で述べたように当初予定していなかった実態調査を行ったためブロック型言語による授業実践とプログラミング構築過程の履歴データの収集が行われていない状況にある。そこで今後はまず,ブロック型言語によるプログラミング教育の実施とデータの収集・分析を最優先で行うが,ブロック型言語を扱う授業とテキスト型言語を扱う授業をそれぞれ設定し,学習者が段階的に授業を履修していくという当初の計画を変更し,ひとつの授業の中でそれぞれの言語を段階的に導入し,両言語を並列的に扱いながら研究を推進することにする。この計画の変更は進捗の遅れを回復させるための安易な方策を選択したものではなく,ひとつの授業の中で両言語の接続性や関連性を強調することによって本研究の狙いである「相乗効果」がより明確になるメリットがあるという判断によるものである。 また当初の計画にはなかった小学校でのプログラミング教育を実施する機会が得られ,今後も引き続いて実施できる見込みとなったため,本研究は本学での大学生を対象とした授業と並行して小学校での授業も行い,それぞれの発達段階に応じたプログラミング教育の効果を検証しながら研究を遂行していくこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額として約10万円を繰り越すこととなったが,これは研究計画を変更したことによって授業実践にかかる人件費やテキスト印刷費などの支出が当初の予定よりも少なくなったためである。次年度も今年度と同様の内訳で助成金を請求しているが,当初計画していた大学生を対象としたプログラミング教育に加えて小学校でのプログラミング教育の機会も増える見通しとなったため,教材費や授業補助者に対する人件費,出張費などの増加が見込まれる。そのため次年度繰り越し分はその増加分に充てることとし,当初の計画と併せて研究を推進する。
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