研究課題/領域番号 |
18K02923
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研究機関 | 福岡工業大学 |
研究代表者 |
利光 和彦 福岡工業大学, 情報工学部, 教授 (10180150)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 触診訓練システム / 力覚センサー / 生体変形 / 粒子法 / 医療シミュレータ / 仮想現実 |
研究実績の概要 |
本研究では「VR触診システムの開発」の要素技術として,①粒子法による生体変形計算法の確立,②新しい接触型力覚センサシステムが重要となる. ①については, 2018年度は,局所領域粒子法の解析プログラムを作成し,直方体と半球の基礎モデルに対して,有限要素法(FEM)との比較を行った.その結果,変位はある程度の精度で一致するが,応力については,両者で比較できなかった(応力の定義が異なるため).この問題点は,先行研究でも指摘されており,粒子法の応力計算精度は不明とされてきた.2019年度は,この点を解決するため,応力の固体内伝搬速度の高速性に着目し,影響半径内のみの応力によって評価するのではなく,解析対象となる全ての自由粒子応力を重ね合わせ,かつvon Mises応力によって比較する手法を新たに提案し,その精度を検討した.その結果,応力についても有限要素法と定性的に一致し,定量的にもある程度の精度で一致することが確認できた. ②については,2018年度は,人肌ゲルを用いた直方体モデル内に,直径約1.4cmのしこりを埋め込み,触診できることを確認した.2019年度は,その製作ノウハウを生かして,直方体生体モデル(90mm×90mm×20mm)に直径1cmのしこりを直方体中心位置に深さ2mm,4mm埋め込んだモデルおよびしこりなしの3モデルに対して,押込力を0.5N~3.5Nで変化させた場合の押込量を測定した.この結果,しこり深さ位置の変化で,押込力と押込量の関係は大きく変わることが分かった.一方,しこり硬さの能動制御については,2018年度は,可変バルーンが加圧する空気圧に耐えきれず破裂する課題があった.2019年度は,新たなしこりバルーンを開発することで約2気圧まで加圧可能となり,実際のしこり硬さに近い硬度を実現できた.これにより,新型しこり硬さ可変力覚センサ開発の目処が立った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は,触診教育訓練システムの基本部分の構築を目的とし,前述の①,②について研究を行ったが,それぞれについて以下の遅延がある. ①粒子法(MPS)の計算において,変位および応力の評価が可能となった.しかし,しこりから離れた位置の触診状態において,一部の局所応力が粒子法とFEM法で異なる結果となった. ②押込変位量と押込圧力の関係を把握するために,しこり埋め込み位置を変化させたモデルでの実験が行えていない.
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今後の研究の推進方策 |
前述の現在の状況を踏まえ,下記のような方策で進める. ①改良した粒子法を用い,FEMとの検討に加えて,基本的なモデル形状(円筒+半球,直方体)に対する実験との比較により粒子法の計算精度を検証する.さらに実際問題への適用を行うため,基本形状を局所計算領域モデルとして,実際の頭頸部モデルに適用する.この際,触診面積,圧力,加重方向は実際の触診に対応する数値とし,変形量,応力を計算する.なお,計算に際して,計算精度を上げるため,粒子間距離を小さくして粒子数を多くした解析モデルでは(50000粒子以上)は,現在使用しているwindows計算機では,メモリー制限の問題が生じる可能性がある.この場合は,メモリーを大きくできる計算コンピュータとして,数値計算用LINUXマシンを追加購入し計算を行う. ②しこりの内在位置を変化させた直方体の生体力覚モデルを必要数用意し,触診(押込)圧力と変形の関係を実験的に明らかにする.この結果を基に,空気圧制御によって硬さを可変できるバルーン式可変硬さしこりを,接触型力覚モデル内部に組み入れた独自の生体力覚センサを製作する.さらに,この生体力覚センサを制御プログラムで制御可能とした上で,VR触診システムに組込むことで,生体力覚センサシステムを構築する.このシステムを用いて,触診面積,圧力,加重方向に対する変形量および触診感覚(反力)の相互関係を調査する.加えて,連携研究医師の所見・要望などを取り入れ,システムとして全体を仕上げる. 以上のように,若干の遅れはあるものの,要素技術の問題点はおおよそ解決しており,特に研究遂行上の問題はない.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響により,発表予定の学会が中止となったことおよび連携研究者との打合せを自粛したために約17万円の繰越金が生じた.この繰越金は,やや遅れている実験の装置部品・材料費および学会発表費用などとして使用する.
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