研究課題/領域番号 |
18K02926
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研究機関 | 神戸市立工業高等専門学校 |
研究代表者 |
佐藤 徹哉 神戸市立工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (40583745)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ICT技術応用 / 教育工学 / 英単語学習 / 生体情報 / 脈動波形 / 心拍間隔 / Android端末 / AI対話 |
研究実績の概要 |
本研究は、ICT技術を教育に活かすための実践実験プラットフォームの開発を目標として、学習効果を高める仮説/目論見の立案、検証ツールの試作、学生を対象とした実践実験と実験結果の分析を行い、仮説/目論見の検証とブラッシュアップを繰り返しながら推進しているが、特に本補助事業期間においては『脈波解析による学習取り組み姿勢の評価』を可能とする実験プラットフォームの開発に取り組んでいる。 その初年度である2018年度の目的は、被験者の生体情報として脈動波形をリアルタイムに測定記録し、これまでにも測定してきた脳波データや、被験者からの回答情報(回答に要した時間と正誤情報)と併せて種々のデータ分析を行うことができる実験装置を立ち上げることである。 脈動波形については、心拍間隔のばらつきに着目して、ヒストグラムやローレンツプロットや周波数スペクトルの形で分析を行って、交感神経および副交感神経の状態を精神的なストレス状態と関連付ける臨床研究が多数報告されており、これを本研究に取り入れることができれば、学習者の状態を定量的な時間変化として捉え、学習効果の最大化に有益な分析が行えるものと考える。 具体的には、これまでに開発を進めてきた小型Android端末で動作する英単語学習アプリを用いたボタンタッチによる回答に加えて、新たにAmazon AlexaのAI対話機能を用いた発話による回答を可能にして、大きく被験者の状況が異なる環境におけるストレス状態を脈動波形からリアルタイムに推し量れるシステムを目指して開発し、20名以上の被験者データを測定して分析を行った。 特にリアルタイムで被験者のストレス状態を推定できるローレンツプロットの分析方法として、各問題に回答している間の、各心拍間隔の前心拍間隔からの増減の二乗平均を算出する評価値を考案し、被験者のストレス状態が反映された値が得られることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本補助事業期間初年度(2018年度)の本研究の目的は、被験者の生体情報として脈動波形をリアルタイムに測定記録し、これまでにも測定してきた脳波データや、被験者(学習者)からの回答情報(回答に要した時間と正誤情報)と併せて種々のデータ分析を行うことができる実験装置を立ち上げることであるが、実験装置としては初期の立ち上げを完了し実践実験を開始することができた。 具体的には、新たに脈動波形をリアルタイムに測定するために、KonicaMinolta社製パルスオキシメータ(SR-700bs)を、従来から用いてきた小型Android端末にBluetoothで接続し、リアルタイムの波形データとして記録できる実験装置として開発した。 さらに記録した脈動波形データを分析するに当たり、できるだけ大きく被験者(学習者)の状況が異なる状態で比較を行うために、小型Android端末で動作する英単語学習アプリを用いたボタンタッチによる回答システムに加えて、新たにAmazon AlexaのAI対話機能を用いた発話による回答を可能にした新システムを開発して、20名以上の被験者データを測定した。問題の出題と回答をAmazon Alexaで行う場合も生体情報は小型Android端末で記録した。 記録したデータは、主として心拍間隔のばらつきに着目して、ヒストグラムやローレンツプロットや周波数スペクトルの形で分析を行い、特に被験者のストレス状態をリアルタイムに推定する目的には、リアルタイムでローレンツプロットを描き、各問題に回答している間の各心拍間隔の前心拍間隔からの増減の二乗平均を算出した指標が有効であることを見出すところまで進めることができたため、初年度の進捗状況としては概ね順調に進展しているものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
まず、初年度に立ち上げた実験装置を引き続き利用して、被験者(学習者)の生体情報としての脈動波形の測定記録を、比較可能な条件を整えた上で被験者数も増やして実施する。 初年度に行ったデータ分析でも可能な限り出題する問題を同じにするなどの形で条件を揃えて比較可能となるように心掛けたが、結果として被験者の試験時の状態(例えば周囲の騒音や、部屋の温度等の快適性、問題に取り組む時の姿勢など)の個人差を無くすことができておらず、それらの違いが被験者のストレスレベルに影響を与えてしまうことで後のデータ分析にも影響している可能性が示唆された。 そこで今年度は被験者の学習実験に際しては、必ず温度を一定に保った静粛な専用実験室で被験者1名だけを対象として実験を行い、椅子も同じものを用いて姿勢も出来る限り同じに保つなど、可能な限り全ての条件を揃えた比較可能なデータを収集することとした。 このようにして得られた脈動波形のデータ分析としては、例えば周波数スペクトルの形での分析として、多くの臨床研究が報告されている特定の周波数成分に着目した分析を、本学習分野での研究にも取り込めるように分析方法の検討を進める。 また、同時に脳波、まばたきのタイミングと強度、脈の強さ(Perfusion Index)、血中酸素飽和濃度等の生体情報も測定記録し、それぞれの生体情報に関してこれまでに蓄積されている知見を総合的に活用して被験者の学習取り組み状態を推し量るデータ分析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
先ず物品費については、脈動波形データの測定記録を行うサーバーとなるコンピュータを購入し、研究室内に立ち上げることで効率的な実践実験データ収集を意図していたが、初年度は測定装置としての立ち上げとデータ分析開始を優先したためサーバーとして用いるためのコンピュータの購入が後回しになってしまった。今年度は今後の研究の推進方策でも述べた通り、可能な限り全ての条件を揃えた比較可能なデータの収集を加速させるため、当初からの今年度計画分と合わせて購入する予定である。 旅費については学会発表を通じて多くの研究者と議論を深めることを目的とした支出を計画しており、実際に米国AACE(Association for the Advancement of Computing in Education)主催のE-Learn2018に参加して目的を達成したが、本補助事業からの支出のための手続きが間に合わなかった。今年度も得られたデータや知見を学会発表を通じて共有することで社会に貢献し、また議論を深めることで今後の研究に繋げることは重要であるので、必ず学会発表を行って費用を支出させていただく予定である。 人件費謝金等も支出手続きが間に合わなかったため他の費用で支払うこととなったが、今年度については実験の被験者数も増やして可能な限り全ての条件を揃えた比較可能なデータの収集を加速させる計画であるため、本補助事業から支出させていただく予定である。
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