研究課題/領域番号 |
18K02939
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
牧野 治敏 大分大学, 高等教育開発センター, 教授 (30165683)
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研究分担者 |
藤井 康子 大分大学, 教育学部, 准教授 (10608376)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 総合的な学習の時間 / アートとサイエンス / 地域素材 / 色の学習 |
研究実績の概要 |
「地域の色・自分の色」実行委員会の協力により、津久見市立第二中学校、国東市立安岐中学校での授業観察が綿密に行われた。 津久見第二中学校1年生には、地域の素材として石灰石と自宅周辺に転がっている岩石をとりあげた。生徒が拾った岩石はハンマーと乳鉢で細かく砕き篩にかけ粉状の顔料として調整した。石灰石については、大分県石灰工業会の会員4名により、石灰岩の採掘方法、津久見市の石灰産業の歴史と現在、化学反応等について講義を行った。また、持ち込まれた石灰石から漆喰を作るまでを生徒達に提示実験をおこない、発熱の様子を実感させた。そこで作成された漆喰とあらかじめ準備した顔料を使って、個人毎に準備されたフレスコ画作成のための木枠に漆喰を塗り込み、顔料を使ってフレスコ画を作成させた。作成したフレスコ画は文化祭(水晶祭)で発表し、その後JR津久見駅に展示された(2018年11月23日大分合同新聞朝刊14ページ掲載)。 安岐中学校1年生には、国東半島宇佐地域世界農業遺産に関連した農産物、食材を活用した調理実習、絵画作成、妙見山巡検を行った。また、九州国立博物館館長による美術と書に関する講演が行われた。世界農業遺産については世界農業遺産協議会会長による、国東地域の自然・産業・環境に関する講話を実施した。地域の食材を活用したGIAHSパスタを地元のシェフの指導のもと、調理実習を行った。九州国立博物館館長から伝統的な顔料と天然の色について講演をもとに学習した。また、地域の自然を実感するために学校近くの妙見山巡検を行い、国東半島を俯瞰し地形や色の学習とした。これらの学習成果を生徒へのアンケートから分析しているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画は3ヵ年計画であり、その初年度として中学校の1年生を対象として、「色への出会い」をテーマに掲げた、科学教育と美術教育を踏まえた総合的な学習の時間での授業実践を行った。以下に述べるように研究協力校である二つの中学校においてこれからの学習の動機づけとなる色への興味関心は高められたと考えられる。 津久見第二中学校については、研究協力員による中学校、津久見市教育委員会合同の協議会、中学校での実施計画作成と打ち合わせを行った後、顔料の作成、フレスコ画の作成と石灰石に関する講話と実験、文化祭での発表を行い、それらの実践をまとめ平成30年度第2回日本科学教育学会研究会(平成30年10月22日)において「地域の素材を使ったアートとサイエンスを融合する総合的な学習カリキュラムの開発」として報告した。生徒達からの感想により、研究の初年度として、地域と色に関する興味関心を持たせることに成功していると考えられる。 安岐中学校においても、中学校校長、教頭、1年生学年主任、美術担当教員等との協議会を実施し、カリキュラムの作成段階から本研究の内容を踏まえた授業実践を継続する体制が構築されている。学習の動機づけとなる1年目において、世界農業遺産協議会会長による地元の七島藺農業の歴史的変遷とそれの製品化に関する学習や、九州国立博物館館長による国宝を例示しながらの書と色の関連を説明した講演会等への感想から、生徒達の興味関心が得られたことが見て取れた。
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今後の研究の推進方策 |
1)理論的研究:色と地域を主題とした学習について、学校教育での実践記録を中心に先行事例の調査を継続するとともに、学習成果の分析方法をの手法について更に調査を進める。平成30年度の研究は美術を中心とした学習で、理科からのアプローチが少なかったので、今年度は科学的な題材や手法についても実践を行い、そこで得られた生徒のデータを分析する。それらの実践と分析から得られたデータ等をもとに理科と美術を融合した総合的な学習プログラムの試案を作成する。 2)授業実践:フィールドでの調査と制作活動を主とした授業を設定する。2019年度にあたっては研究協力校の担当者および「地域の色・自分の色」実行委員会のメンバーが大幅に入れ替わったために、昨年度の計画をふりかえるとともに、本年度から実施可能な計画な作成と授業実践を行う。より広範なフィールドを活用した授業実践を実施するために,生徒の移動手段として大型バスを利用する。教室での授業は岩石からの絵の具の作成を継続するとともに、地域の自然物(主に植物)から色素の抽出実験を行うなど、理科に関連した実験を取り入れる。 3)研究の進捗:「地域の色・自分の色」実行委員会および、研究協力中学校における本研究の主たる協力者の異動に伴い、上記のような授業実践の内容に修正を加える。学習成果の分析のためのテキストマイニング、図形絵画分析による解析を行い生徒のデータを仮にまとめ、その中間報告を関係する学会等で発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
「美術との出会い」について、子どもを美術館まで移動させるバス借り上げ費用を予定していたが、講師招聘による講演に変更したため、不要となった。本予算を次年度に実物教育のための美術館移動に予定している。また、協議会、生徒の成果報告会等を、地元の公民館による発表会で実施したため単独での発表会が不要となり、会場費、講師招聘旅費、謝金等が不要となった。次年度以降の協議会、報告会は本予算による計画である。
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