研究課題/領域番号 |
18K02944
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研究機関 | 椙山女学園大学 |
研究代表者 |
野崎 健太郎 椙山女学園大学, 教育学部, 准教授 (90350967)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 自然災害 / 応急給水 / 小学校 / 理科 / 湧水 / 水質 / 飲料水 / 生活水 |
研究実績の概要 |
名古屋市千種区の近接する3つの湧水と雨水を対象にして,2015年から2017年にかけて調査した水質の季節変化を記載し,それらに及ぼす人間活動の影響を調べた.続いて,この調査結果を教材として用いて,小学校理科の教育実践を行った.湧水の起源となる雨水の水質は,pH 4.4~5.3,電気伝導度2mS/m,溶存無機態窒素濃度(DIN)470ugN/Lであった.湧水の水質は,人間活動の影響が無い金明水では, pH 5.1~5.5,電気伝導度2mS/m,DIN 13ugN/Lであったが,都市部の本山ではpH 5.8~6.5,電気伝導度10mS/m,DIN 2000ugN/L,椙山小学校では6.3~9.5,24mS/m,5000ugN/Lとなり,都市中心部に近い湧水ほど,水質は弱酸性から中性および弱アルカリ性へと変化し,電気伝導度と溶存無機態窒素濃度が高い値を示した.したがって,都市部の人間活動は,湧水の水質を大きく改変していることが明らかになった.教育実践は,小学校第5学年理科の河川の授業で行った.授業の主題は,「身近にある川のはじまり-椙山小学校から川がはじまる」とし,ねらいは,「1川は斜面から湧出する湧水からはじまる」,「2湧水の水質には人間活動が大きな影響を及ぼす」の2点を設定した.授業には,地理院地図の3D機能を用いた地形解析と,本格的な手法による亜硝酸態窒素濃度の比色分析を組み込んだ.この教育実践で,生徒の印象に残った内容は,1位が亜硝酸態窒素濃度の分析,2位が湧水は川のはじまり,であった.これらの生徒の評価は,授業のねらい1と2に関係することから,湧水は理科教材として有用である可能性が示唆された.教材の質を高める今後の研究課題としては,都市部の湧水で高い濃度を示す溶存無機態窒素の起源解明,教育効果の測定,教科教育への位置付け,災害教育における教材化の4点を挙げた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 調査結果の出版 本研究の成果は、日本湿地学会の学術雑誌「湿地研究」に2本の査読付き論文として出版された。そして2021年度は2本の論文で確立された教材を用いて社会教育の実践を行った。現在、この結果を論文としてとりまとめており、本研究の最終的な結論として投稿準備を進めている。さらに2022年4月に本研究の成果を活用した陸水学の教科書「身近な水の環境科学 第2版」を朝倉書店から編集責任者、分担執筆者として出版した。このように本研究で得られた成果は論文、書籍として出版され社会還元が実現している。 2. 教育実践の充実 本研究は都市部の湧水の水質形成過程を明らかにし、それを教材化した上で、小学校や公開講座等で教育実践を行うことを目的にしている。これまでに大学附属小学校で2年間、公開講座で教育実践を行っており、小学校での実践は論文として公開している。したがって、本研究の目的をかなりの程度で達成できていると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
1つ目は,都市部の湧水に付加されている溶存無機態窒素の起源解明である.本教育実践では,都市部に近づくにつれ,電気伝導度と溶存無機態窒素濃度が高くなることから,人間活動の影響として取り扱っているが,具体的な起源を紹介することで,生徒の生活体験とも重ねて考察することが可能となり,教材としての価値が高まると考えている.イオンクロマトグラフを用いて陸水域における人間活動の指標となる溶存無機態イオンの分析を行うことが起源推定の第一歩となる.他には,下水管からの漏水の可能性を検討するために,大腸菌群の計数も興味深い指標となる.最近は,培地を含ませたシートに試水を添加し,35℃24時間の培養で行う簡易法の精度が高くなり, その操作の簡便性から小学校の科学教育にも十分に適用できる.2つ目は,一般化を検証するための教育効果の測定である.日本の学校教育では,対照実験の実施は極めて困難であるが,対照群を設けない事前・事後試験の実施は可能である.特に湧水の仕組みを絵で表現する事前試験は,小学校でぜひ取り組みたい手法である.絵を描くことは児童の持つ自然認識を分析するために有用である.3つ目は,教材としての湧水を環境教育に留めず,教科教育に位置付ける試みを拡大することである.湧水とそれに連なる湿地は,子どもたちが地域の自然に目を向ける教材として体験的な学習活動に利用されている.今後,著者らは,湧水を第5学年理科「流れる水の働きと土地の変化」から第6学年理科「生物と環境」への接続と学習の転移に利用できる教材として拡張を試みる.4つ目は,自然災害,特に東海地域で想定される大地震への備えとなる安全教育の教材としての位置付けである.それぞれの湧水において,簡便な処理で飲用可能,飲用以外の用途に利用可能,あるいは利用不可能という条件が明らかになれば,災害時の水利用に関する有用な教材となることが期待される.
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度もCOVID-19感染拡大防止の観点から学外での教育実践活動が抑制されていた。そのため教育実践に必要な消耗品や旅費の使用を次年度に回すことにした。
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