研究課題/領域番号 |
18K02951
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研究機関 | 総務省消防庁消防大学校(消防研究センター) |
研究代表者 |
野村 祐子 総務省消防庁消防大学校(消防研究センター), その他部局等, その他 (80358788)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 防火教育 / エネルギー概念 / 小学校理科 / 教材開発 / 深い学び / 防災教育 / 災害の三角形 / 自己組織化 |
研究実績の概要 |
災害の複合化・多様化や急速な少子高齢化を背景として年少者に対する体系的・継続的な防火教育の必要性が高まっているが、小学校理科新学習指導要領では多彩な災害を統合的に理解するために不可欠な基本概念である「エネルギー」を柱とする領域において災害との関連が示されていない。そこで、科学教育における防火教育の問題点を指摘するとともに、一連の問題を解決するための端緒として、小学校理科におけるエネルギー概念の理解を深める体系的な防火教育の枠組みを提案した。 提案した防火教育の枠組みの試案を精緻化しエネルギー概念の理解と火災に関する基礎的な理解が図られるようにするため、小学校理科第3学年の「光と音の性質」における虫眼鏡による日光の集光を活用した教材開発を行った。セルロースの着火過程に関する知識の整理を行うとともに、2種類の紙の熱分解の様子と火炎拡大へ遷移する様子を比較観察できる映像教材を作成した。また、可燃物に蓄えられるエネルギーの量には限界があることを直感的に認識できるようにする方法を考案した。 エネルギーの量が限界以上になると形態が変化する現象を「自己組織化」という。自己組織化は物質の世界だけでなく人間社会でも生じる。科学リテラシーを育む理科カリキュラムは、社会的意思決定に必要な基礎知識を共有し適切な防災ガバナンスを備えるための重要な社会基盤であり、社会の自己組織化に深く関わっている。国際学力調査が不適切な課題を繰り返し出題することによって消火に関する誤概念を拡散し複数の国々の理科カリキュラムに悪影響を及ぼしている可能性を報告した。 多様な災害に通底する普遍的なメカニズムを理解するため、自己組織化の観点から様々な災害現象を考察した。噴火や火災などの災害はすべて物質・エネルギー・運動の相互作用によって生じることから、これらの相互作用を「災害の三角形」として図示することを提案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
虫眼鏡による日光の集光を活用し紙の着火挙動を学習するための映像教材を予定どおり作成することができた。さらに、着火過程に関する知識の整理を行うことによって、第4学年以降も段階的に着火挙動の学習を重ねられるように発展教材を作成することができた。しかし、計画時には平成30年度中に教材を消防研究センター公式ウェブサイト上に公開する予定であったが、考案した散逸構造模型実演装置の作成が間に合わず、当初の予定を達成することができなかった。一方、自己組織化と災害の仕組みに関する考察と災害の三角形の提案に関しては、当初予期していない成果を挙げることができた。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 過熱水の突沸実験を行い、第4学年「金属、水、空気と温度」の学習を深める実験方法と映像教材を開発する。 (2) 既に公開済のウェブ教材を発展させたろうそくの消炎実験を行い、第6学年「燃焼の仕組み」の学習を深める実験方法と映像教材を開発する。 (3) 作成した教材を順次ウェブサイト上に公開する。 (4) 既に公開済のウェブ教材と本研究で開発した全教材を構造化した防火教育カリキュラムを提案するとともに、教員の理解を促す技術資料を作成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
三者見積り等の発注前作業の手間を省くため、実験用消耗品と図書および動画編集アプリケーションを自費で購入した。また、小学校理科教育研究に関する情報収集等の打合せと研究成果の発表が予定より遅れ、当初予定していた学会とは別の研究会で実施したため、旅費を使用しなかった。 実験用機器購入の費用と情報収集および研究成果発表のための旅費として使用を計画している。
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