研究課題/領域番号 |
18K02964
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研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
右近 修治 東京都市大学, 共通教育部, 客員教授 (60735629)
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研究分担者 |
新田 英雄 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (50198529)
山本 明利 北里大学, 理学部, 教授 (70751105)
中村 正人 東京都市大学, 共通教育部, 講師 (90247130)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 物理教育研究(PER) / 物理スイート / 問題解法スキル / デジタル教科書 / 多様表現 / 大学入門力学教科書 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,理工系大学初年度生を対象とした物理教育研究(Physics Education Research: PER)による調査結果に基づき,物理スイート構想を念頭に置いた標準的な大学入門力学教科書を,紙媒体・デジタル,双方の形式で開発することにある。 我々研究グループは本研究に先行する研究(基盤研究(C)課題番号15K00933)において,学生の概念的理解と問題解法スキルとのあいだに強い相関が存在すること,学生が持つ学習観が学力に影響を及ぼすこと等を明らかにしてきた。その研究成果に基づき,入門物理教育の目指す目標として1.問題解法スキルの育成,2.深い概念的理解,3.好ましい学習観の育成の3点を設定した。これらの目標を達成するために検討すべき課題は,(1)物理教育研究(PER) として長年検討され,有効であると考えられてきた教材の導入(2)身近な問題,日常的な問題(context-based physics) の導入(3)多様表現(Multiple Representations) の導入(4)多彩なアナロジー,モデルの導入(5) 問題解法指導の導入,の5点である。(2)(3)(4)(5)の課題は実証的研究が少ないとはいえ,その経験的有効性は広く知られている。しかし本研究が対象とする学生に対して,どこまでその有効性を認めることができるかは不明と言わざるを得ない。 19年度は,特に(3)(5)の観点を盛り込んだテキストベースの力学教材を作成し,それが学生の問題解法スキル向上にどれほど効果的であるかを調べた。現時点では限定的であるが,(3)多様表現の活用が学生の問題解法スキル向上と深く関わっていることが明らかになりつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概要中にある課題(1)~(5)を具体化した力学テキスト教材「仕事とエネルギー」を試作し,東京都市大学工学部初年度生からボランティア学生27名の協力を得,その効果を調べる予備調査を実施した。 「仕事とエネルギー」の単元を選択した理由は2つある。第一に,この単元のPERにおける研究史は40年以上に亘るが,近年急速に焦点が収束しつつあり,エネルギー保存則の取り扱い方の枠組みに関するコンセンサスが得られてきていることである。しかしこれはPERにおける研究レベルであって,現在流布されている教科書にはほとんど反映されていない。第二に,この単元と多様表現との関連性がきわめて深いことが予想されたことである。AinsworthのDeFT(Design,Function,Tasks),当該学習の到達目標範囲を覆う計画(design),多様表現が学習過程に果たす機能(functions),学習者が多様表現と共に取り組まなければならない認知的作業(cognitive tasks),3つの側面への配慮の具体化に,この単元は適していると判断された。 予備的調査は,多様表現を活用する能力の高い学生ほど問題解法スキルが高い傾向にあることを伺わせてはいるが,証拠はまだ不十分である。19年物理教育学会年会,19年物理学会年会秋季大会, 20年物理学会年会春季大会において,また20年青山学院教職研究第6号において,この調査研究に関して報告した。エネルギー保存則の取り扱い方の枠組みに関しては, 20年青山学院教職研究第6号,20年物理教育通信(APEJ)において報告し,中学,高等学校教員向け解説を理科教室誌上(19年11月号)に掲載した。また,高等学校向けテキストのあり方の解説を電磁気学の扱いを例として理科教室誌上(20年1月号)に掲載した。
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今後の研究の推進方策 |
18年度研究成果を踏まえ,教科書開発のための指針を「理工系入門物理教科書に求められるもの」として,19年に「大学の物理教育」誌に発表した。同論文において,概要中にある大学理工系入門物理教育が目指す目標1.~3.を定め,今後もこの目標に沿った紙媒体,電子媒体テキスト開発を進めていく。 研究分担者,研究協力者との間に質点の力学の範囲で執筆分担を決め,現在定期的に編集会議を開いて開発を進めており,前期で完成させる予定である。作成したテキストの効果を調べる調査を後期前半に実施する。しかし,コロナ禍の影響は大きく,編集会議をWeb実施に切り替えているとは言え,各研究者の教育者としての負担増,調査時期における影響等,容易に先を見通せない状況にある。 また,デジタル教科書に使用する実験動画撮影を開始していたが,コロナ禍により中断されている。状況の変化に応じて再開していきたい。 しかしいずれにしても,研究成果として「質点の力学」の紙媒体,電子媒体テキストサンプル提示に向け,研究分担者,研究協力者との研究グループ討議を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年3月には新潟大学シンポジウム,物理学会春季大会等の開催が予定され,研究協力者を含めた旅費を計上していたが,これらの学会がすべてコロナ禍によって中止となり,旅費の予算が執行できなかった。また,デジタル教科書動画撮影用の実験教材購入が,本年2月以降に困難となり,執行できなくなってしまった。 実験教材の購入は,今後の経済の回復状況に応じて順次執行が可能になると思われる。旅費については,夏の物理教育学会,秋の物理学会の現地開催がやはり中止となっているので,その予算を見直し,研究資料,実験教材購入等の予算を強化したい。学生調査のための人件費もできれば強化したいが,秋以降のコロナ禍の状況もあり,見通せない状況である。
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