研究実績の概要 |
令和元年度は, 主に山地や温泉地などの放射線量を測定した。地上からの高度が少しずつ上がるにつれ宇宙線の影響で放射線量の値が徐々に大きくなることが期待される。実際に, 和歌山県内で最も高い山である護摩壇山山頂で放射線量を測定した結果, 0.075μSv/hという値が得られ海岸付近(0.03-0.04μSv/h)に比べやや大きい値であった。さらに, 田辺市龍神温泉周辺で放射線量の測定を試みたが大きな差異は見られなかった。 次に, 都市部(和歌山市や海南市,御坊市,田辺市)の放射線量を測定した。その結果, 都市部では0.05-0.08μSv/hを示し郊外に比べると少し大きくなった。これは, 建物に使われている建材の影響が考えられ, 建材中のカリウムの放射性同位体によるものであると思われる。特に, 建物内の御影石から大きな値(約0.1μSv/h)が得られた。 これまでの実験結果から, 和歌山県の放射線量は都市部を除いて海岸付近が0.03-0.04μSv/h, 山地が0.05-0.07μSv/hであることがわかった。このことから, 和歌山県では放射線を放出する土壌や岩石が少なく, 県内の放射線量は宇宙線や建物から放出される放射線に強く影響されることがわかった。 これらの実験結果をもとに昨年と同様に教員免許講習(田辺会場(熊野高等学校))で放射線に関する講義と実験を行った。さらに, 令和元年度から和歌山市の中学校(1年生対象)でも同様の講義と実験を行い, 生徒40名に対し放射線に関するアンケート調査を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度は, 和歌山県内の山地や温泉地における放射線量や地質の違いにおける線量の差異などについて詳しく調査した。その結果, 県内における線量に大きな違いは見られなかった。 次に, 昨年に引き続き得られた実験結果を教員免許更新講習で紹介するとともに, 放射線に関する指導法についても講義した。そして, 身近な場所の線量を知ることが大変重要であることを共有した。 さらに, 和歌山市内の中学校で得られた放射線量に関するデータの紹介や市販の測定器を使った実験も行うことができた。そして, 実験後放射線に関する科学的な興味を知るためにアンケートを実施した。その結果, 測定器や線量マップを活用することで身近な放射線への理解が深まることがわかった。 以上のように, 令和元年度の実験で予定していた和歌山地域における放射線測定は, すべて終了した。さらに, 令和元年度から中学校での放射線に関する体験型学習も実施できた。よって, 本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は, 学校の実験室や地域で開催される科学実験教室において放射線に関する講義や線量測定を行う。そして, これまで得られた和歌山県内の線量マップを紹介することで児童や生徒, 市民の人々に身近にある放射線をより良く理解してもらうことが可能となる。現在, コロナウイルス感染拡大により学校現場への出向は困難であるが, 放射線の正しい知識をいかに教えていくか学校現場から考えたい。 さらに, 学校などの校庭の土壌や食品の放射線を測定し, 生徒に放射線をより身近に感じてもらう工夫を行っていきたいと考えている。生徒が実際に放射線を測定したり, 線量マップを利用することで放射線への理解を深め, 放射線を正しく怖がることができるようにすることが大切であると思われる。そして, 今後放射線に関する正しい知識をもつことで放射線への見方, 考え方も変わっていくだろう。
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