本研究は、農薬に関する様々な教材を作成し、教育やリスクコミュニケーションの技法開発を目指すものであるが、着手した平成30年度の6月に農薬取締法が改正されて様々な生物へのリスク評価が登録要件に加えられたため、急遽、それらを盛り込んだ教材の作成を始め、令和3年度末までに終えた。また、その過程で、水域の環境中予測濃度に関する詳述部分の追加や「ARS(Audience Response System)を活用するケースメソッド」の事例の追加等も行った。さらに、平成30~令和元年度には、自主的な授業外学習のためのシステムや資料も2種類作成した。 一方、令和元年11月にネオニコチノイド系殺虫剤(以下、ネオニコ)の生態影響に関する論文が発表されたため、急遽、それを活用した教材を作成した。そして、令和2年度にはネオニコの光分解産物のユスリカ幼虫へのリスクに関する情報を追加し、令和3年度には日本各地の湖でのワカサギの漁獲量とそれらの湖がある道県へのネオニコの出荷量の推移等を追加した。また、令和4年度には、汽水性カイアシ類のネオニコへの感受性データ、琵琶湖でのワカサギの漁獲量とケンミジンコの現存量および滋賀県へのネオニコの出荷量の推移、さらに霞ヶ浦におけるユスリカ幼虫やカイアシ類の現存量の推移等を追加し、教材の内容を一層充実させた。 なお、平成30および令和元年度は、作成した教材を用いて対面形式の授業を行い、ARSによるアンケート結果や感想文の内容からその有効性を検証することができた。しかし、令和2~4年度は新型コロナウイルス対策のためオンデマンド形式になった授業ではARSが使用できず、また、対面形式でも感染防止のためその使用を見送らざるを得なかった上に、人を対象とする研究倫理指針の導入もあって本研究の計画時の前提が崩れた状況となり、二重過程理論に基づく詳細な分析にまで至ることはできなかった。
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