研究課題/領域番号 |
18K02989
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
武田 晃治 東京農業大学, その他部局等, 教授 (70408665)
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研究分担者 |
緩利 真奈美 東京農業大学, その他部局等, 助教 (70782647)
浅沼 茂 立正大学, 心理学部, 特任教授 (30184146)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 科学教育 / 教材開発 / 色素 / カリキュラム |
研究実績の概要 |
教材研究では、ニジマス幼魚やアルビノダンゴムシの体色変化の実験を行うために飼育を開始したが、長期飼育に課題が残った。コーンスネークのアメラニズムの脱皮試料から、その要因遺伝子とされるOCA2遺伝子に着目した実験教材の開発を試みた。サケの色に着目し、サケの食物連鎖をテーマとした授業開発を行った。また、サケの赤い素であるアスタキサンチン含有餌を白色アメリカザリガニに給餌する中で、青やピンク色になる個体群の存在が明らかとなった。その要因として、色素結合タンパク質が推察された。そこでアスタキサンチンと結合タンパク質に着目した実験教材の開発に取り組んだ。 基礎的研究では、国外のカリキュラムデザインの実態を把握するためにミシガン州立大学のJ.クレイチェック教授のもとを訪問し、連携方法を議論した。面接ではミシガン州での同氏の取り組みや問題解決型学習の具体的方法について質問を行い、知見を得た。また、色素の単元計画として問題の配置や探求の過程の明確化という視点を頂いた。 また、二回目の米国訪問として令和元年9月9日から17日までウィスコンシン州のマジソンとホワイト・ウオーターという2つの大学を訪ねた。特にマジソン大学は、伝統的にカリキュラム関係に強く、中西部の農学部を中心に発展した大学の一つである。ホワイト・ウオーターは、いわゆる師範学校を母体に発展した学校で、現在は、リベラル・アーツ中心の大学院進学課程の教育が主である。サイエンス関係の学部長キャサリーン・チェンや学部教育の担当者数名とサイエンス系の大学院を志望する学生と大学での教育の内容を座談的に尋ねた。質問内容は発見学習的な教授法を意識しているかどうか、である。担当者の話では、公式を先に教えたり、説明を加える教育法は行っていない。探究すべき課題に関わる材料、資料はあらかじめ与えるが、教師が答えを述べない事が当たり前のように言われていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
教材研究では、アルビノダンゴムシの体色変化飼育試験行うために、長期飼育方法を検討中である。コーンスネークの脱皮試料からゲノム抽出を試み、OCA2遺伝子のPCRによる増幅条件を検討中である。 サケを中心とした食物連鎖上(植物プランクトン、動物プランクトン、サケ)の生物由来の色素抽出と薄層クロマトグラフィーによる色素の分離を行い、アスタキサンチンの代謝や蓄積が観察できる実験条件を見出した。本実験を取り入れた授業実践研究を行う予定であったが、コロナの影響により学校での実践には至っていない。 これまで、いろいろな色のアメリカザリガニを作出してきたが、最近の研究から、アスタキサンチンを白色ザリガニに給餌することで、青色になるものとピンク色になる個体群の存在を見出した。仮説ではあるが、青く変色したザリガニを茹でるとピンク色になることから、色素結合タンパク質の有無がその要因ではないかと考え、研究を進めている。 理論研究では科学的探究の方法としての理科教育の在り方について検討を進めている。具体的にはどのような単元構成が探究の方法を深めるのか、という視点での検討である。教材研究に応じた単元開発を更に進めていきたい。 ホワイト・ウオーターでの学生へのインタビューにおいても、高校、大学での勉強も単純なドリルもあったが、多くの勉強が問題解決的な学習であったという。したがって、ヒューリスティックということを改めて意識する必要はなかった。科学哲学やPISAのテストにも登場する、ゼンメルバイスの消毒の話は、科学における直観的思考の話であるが、その探究の過程は細かい知識としては知らないが、これまでの学習の方法が、探究的なヒューリスティックであったという。マジソンでは、科学的研究のプロセスをビジュアライズすることを研究しているドイツからの客員研究員がいたが、残念ながら時間がなく話を聞くことはできなかった。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度の教材研究では、サケの食物連鎖を色から見る授業として、食物連鎖上にある生物に含まれる色素のアスタキサンチンに着目した実験教材を含んだ授業開発や授業実践を行う。そのための学習指導案の作成を行う。また、アスタキサンチンを白色アメリカザリガニに与えることで青色とピンク色に変色する個体群を用いて、その要因遺伝子と推察される色素結合タンパク質に着目した実験教材の開発に取り組む。さらに、ダンゴムシやヘビ(コーンスネーク)の脱皮試料から色素やDNAを抽出し、見た目の色の要因を化学的もしくは遺伝学的な視点からアプローチできる実験教材の開発を行っていく予定である。 理論的研究ではこれまで開発してきた教材を用いた単元の内容構成の総括を行いたいと考えている。特に中学校、高等学校のカリキュラムの円属性を踏まえた単元計画を検討したいと考えている。更には、本研究で提案した単元が現在の新学習指導要領においてどの点に位置づくのか、評価基準にも照らすことによって運用可能性を見出したいと考える。また、教育方法としての問題解決学習および教授法をこれまで訪問した米国の科学教育に倣い、取り入れていきたいと思う。特に直感的思考の検討は科学教育の分野において日本では十分に検討されてこなかった。直感的思考を具体的にどのように育むのか、その方策の事例をみることができたので、日本の教育への応用を考察していく所存である。
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次年度使用額が生じた理由 |
教材研究において、予備実験での段階で実験に用いる生体や試薬の購入を抑えたため、繰越金が生じた。令和2年度は、本実験として、生体や実験用試薬に繰越金を消耗品費として使用する予定である。 コロナによる影響により、調査研究における出張が制限されたため、繰越金が生じた。コロナが落ち着き、調査研究が可能となった際に、調査に関わる消耗品費や出張予算として、繰越金を使用する予定である。
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備考 |
武田晃治 生物の色に着目した教材~カラフルザリガニの開発~ 食農と環境24巻 pp.67-69.2019
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